企業経営者・幹部に聞きました~日建協加盟組合 2024年度 会社訪問
日建協では、毎年9月から11月にかけて加盟組合企業を訪問し、日建協活動への理解や時短推進活動への協力を求めるとともに、建設産業が抱えるさまざまな課題について企業経営者と意見交換を実施しています。今年度は以下の3つのテーマについて意見交換を行ったほか、直近の時短アンケートの結果をもとに、それぞれの企業が抱える課題についても意見を交わしました。その中から、主な取り組みや企業経営者・幹部の意見を紹介します。
① 時間外労働の上限規制後の対応について
①-1 時間外労働削減に効果のあった取り組み
1)意識改革関連
- 会社のトップや経営層から法令遵守の重要性や時間外労働の適正申告、時短推進に関するメッセージを繰り返し発信することで、社員の意識向上を図っている。
- 会社から時間外労働の抑制指示を禁止する通達を出して、適正な時間管理や申告を促進している。
- 管理職の研修を強化したことで、管理者側の習熟度が高まり時間外労働の削減に繋がっている。
- エンゲージメント調査を定期的に実施し、社員の意識や満足度をもとに改善策を講じている。
2)業務改革関連
- 各支社や支店に業務支援部署を設置し、内勤の事務系・技術系社員、派遣社員、外国籍労働者などにより、書類や施工図作成などの現場業務支援を行うことで、現場の業務負担軽減と効率化を図っている。
- 写真の整理や品質関係書類の作成、CAD業務などの現場のノンコア業務をアウトソーシングすることで時短に繋げている。
- PCの稼働状況を把握できる仕事可視化ツールやクラウド共有サービスなどを活用することで業務の効率化を図っている。
- 三次元データを用いた測量、IT端末やドローンの使用、ICTを用いた重機操作などで現場の省人化や効率化を図っている。
3)勤怠管理関連
- 勤怠管理システムを改善し、PCログ管理にて利用時間と実際の業務時間に差異が生じた場合には、アラート機能を設けるなど、労働時間の乖離防止を図っている。
- 勤務表の日々申請・承認や翌月の勤務予定を予め入力して上司と共有するなど、労働時間の管理強化を行っている。
- 勤怠管理システムへの上限規制の数値項目の追加や残業時間を可視化することで労働時間に関する意識や適正な労働管理を図っている。
- 設定した時間を過ぎた場合にPCを強制的にシャットダウンしたり、時間外労働の乖離調査を四半期に1回実施するなど、労働時間の管理を厳格化している。
4)制度・教育関連
- 勤務間に一定の休息時間を確保するインターバル制度を導入することで、過労を防止している。
- フレックス制度を導入して、個々の状況に応じた勤務時間を設定し、柔軟に働けるようにしている。
- DXやBIM/CIM研修などを開催し、社員のデジタルスキルを向上させている。
- 残業手当に頼らず、生産性をさらに高めることで利益や賃金が増加するという好循環をめざしていく。
①-2 長時間労働のあった職員や部署に対する支援策
- 長時間労働者に対して、医師や産業医による定期的な面談を実施し、健康状態を確認している。
- 支店の工事部長などの管理職が現場を巡回し、長時間労働者に対して面談を行い、業務状況や課題の把握に努めている。
- 社内の業務支援部署や近隣の現場から支援人員を派遣させ、長時間労働者や現場の業務の負担を軽減している。
- 内勤技術部署や作業所支援部署に配置転換することで、休暇取得を積極的に促している。
- 所定外労働が45時間を超えた場合に、本人と上司にアラートメールを送信し、労働時間に対する意識向上を促している。
時間外労働に対して、昨年よりも経営層や社員一人一人の意識が向上しており、各社さまざまな施策を図っている様子がうかがえました。また、 実際の労働時間と会社に申告している残業時間の乖離については、年々減少しているものの、まだ一定数存在している状況です。より働きやすい建設産業にするためにも日々の適正な時間外労働の申告を心がけましょう。
② 休日・休暇取得の取り組みについて
- 受注段階において、発注者へ4週8閉所を前提とした工期の設定依頼を行うことで休日・休暇取得を促進している。
- 工事中の休日出勤を減らすために事前の工程計画および管理を徹底している。
- 着工後に不可抗力での遅延が発生した場合は安易に土日出勤するのではなく、発注者の理解を得るべく工期の延伸を求めていくように指導しており、発注者の事情で遅れた場合は工期延伸も認めてもらっている。
- 計画年休制度の導入や半日有休の取得回数を増やすなど、社員が計画的に有給休暇を取得できるように促進している。
- 休日出勤が必要な場合に代休を確実に取得させることや代休消滅期間を延長することで異動時休暇を代休に充てるなど、社員が休みやすい環境を整えている。
- 育児・介護休暇の取得者がいる場合には、業務の引継ぎや一時的な支援要員を配置するなど業務のサポート体制を整えている。
- 作業所支援部署による現場業務の移管やDXの推進を図ることで、社員の休日・休暇取得を促している。
- 会社のトップメッセージにて、休日・休暇取得の重要性を周知して社員の意識を高めたり、休日・休暇取得状況を定期的に社員へフィードバックすることで休日・休暇取得を促している。
- 健康診断の充実やメンタルヘルスケアの強化を行い、社員の健康サポートと休日・休暇取得の意識向上を図っている。
4週8閉所を前提とした工期設定については、施工者のみならず、発注者の理解も高まっている様子がうかがえました。また、育休取得にむけた取り組みについては、有給休暇の付与や育休取得の事前周知などの取り組みが各社効果を上げているようです。引き続き、日建協では誰もが満足できる休日・休暇の取得をめざしていきます。
③ 人材育成制度について
- エンゲージメント調査を実施して、得られた結果を現場にフィードバックしたり、意見を分析して今後の対応を検討している。
- 技術系社員のキャリア形成を支援するために、ジョブローテーション制度を導入して、外勤と内勤間の異動を促している。
- 30代を対象とした早期選抜教育を行い、研修を通して必要なスキルを習得させている。
- 入社後の一定年数毎に事務・技術系を対象としたキャリア面接を行うことで社員の働き方における意向を確認している。
- 若手社員を対象に入社後の一定年数毎に先輩社員と面談を行うブラザー制度や直接の先輩ではなく、違う現場の先輩と新入社員でペアを組ませるメンター制度など、社員間のコミュニケーションの向上を図っている。
- 世代間のコミュニケーション不足を解消するためにジェネレーション研修を行い、年齢層毎のギャップを埋めている。
- 技術系社員の中にもさまざまな価値観が存在するため、適材適所のための業務仕分けを進めていく。
- eラーニングを通じて、1on1の教育を実施して、好事例を社内に周知している。
- 定年後のキャリア支援として、給与や待遇面での落差を少なくするための制度を検討している。
- 35歳までに所長を経験させることを目標にしており、そのための受注計画を立てて進めている。
各社がエンゲージメントの向上をめざして、階層別研修やジョブローテーションに加えて、各々さまざまな取り組みを行っており、社員のスキルアップやキャリア形成を支援することで、離職防止に努めている様子がうかがえました。特に、若手社員の育成に力を入れている会社も多く、担い手不足の建設産業にとっては期待のできる取り組みでした。
会社訪問を終えて
会社訪問では、各テーマについて、各社の取り組みだけでなく企業経営者・幹部の率直な意見も聞くことができ、有意義な意見交換を行うことができました。また、時間外労働の上限規制については、各社真摯に取り組んでいる様子がうかがえました。
日建協では、会社訪問で得られた貴重な意見を参考にして、「誰もがいつまでも働ける、誰からも誇りに思われる産業」をめざして引き続き活動していきます。