木浪議長メッセージ第7回 2025年賃金交渉を迎えるにあたって

世界経済は、緩やかな成長が見込まれ、インフレーションがピークアウトし、ソフトランディングのシナリオが見えつつあり、ディスインフレーションに伴い各国では利下げが続く見通しとなっています。一方で代表的なリスクファクターとしては、ロシアのウクライナ侵攻、パレスチナ・イスラエル戦争、中国経済の停滞、アメリカの経済政策転換の可能性などがあります。これらのリスクの甚大化・顕在化の影響は資源・エネルギー価格や貿易を通じ、周辺諸国のみならず日本にも波及するリスクとして依然注視が必要となります。

日本経済は、海外経済が緩やかな成長を続けるもとで、緩和的な金融環境を背景に、所得から支出への前向きな循環メカニズムが徐々に強まり、潜在成長率を上回る成長が続くものと期待されます。先行きについては内需を中心に緩やかな景気回復が見込まれ、消費者物価の基調的な上昇率は、経済社会全体の需要と供給の差の改善及び、賃金と物価の好循環の持続により、徐々に高まっていくと予想されます。企業の設備投資はデジタル化・脱炭素・供給連鎖の強靭化に向けた取り組みや人手不足への対応などから拡大傾向が続いています。他方、リスク要因を見ると、地政学リスクによる資材・エネルギー価格の高騰による消費者意識の低下や、アメリカ大統領選に勝利したトランプ氏が選挙前に掲げた経済政策の転換が実施された場合に日本政府・企業が迫られる方針修正による影響などがあります。

建設産業に目を向けると、2024年度上期の売上は前年同時期と比較すると増収が目立ちました。資材価格や労務費の高止まりの影響はあるものの、受注時採算の改善や選別受注による利益確保がされつつあり、また、民間発注者のコスト上昇及び上昇分の価格転嫁への理解も徐々に進んでいます。先行きについては今後数年で手持ち工事が適正な利益や工期が確保された案件に入れ替わり回復基調に入る見通しですが、サブコンを含め供給力確保がポイントになると思われます。

日建協加盟組合の2024年賃金交渉においては、月例賃金で31の加盟組合がベースアップを獲得し、一時金については26組合で水準の向上がみられ、4組合は前年同水準、2組合が前年比減額となり、業績に応じて明暗が分かれる結果となりました。初任給については、10組合が27万円以上となり、うち、3組合が28万円台となりました。

2025年の賃金交渉は、昨年から継続する賃上げ機運下での交渉となりますが、それ故に物価高による実質賃金の低下を克服出来るベースアップを獲得出来なかった場合は相対的な魅力度低下、ひいては人材獲得への悪影響も懸念されます。そうした意味において、厳しい交渉になることが予想されますが、「あるべき賃金水準」に向けて賃金水準の維持または向上を目指すだけでなく、働き方改革の実現に向け、組合員一人ひとりが高い意識で取り組んでいく必要があります。産業の魅力化や担い手不足などの課題の解決へ向けた取り組みの前提となる賃金制度は「安心して働き続けられる産業」への重要な足がかりでもあります。ともに力を合わせて2025年賃金交渉に取り組んでいきましょう。