2014年 賃金特集 産業の誇りを胸に! 未来をつかめ!
2014年の賃金交渉が始まりました。今回の賃金交渉は、デフレ脱却にむけて国や企業のトップが賃上げについて前向きに発言するなど、賃上げへの機運が高まっています。建設産業で働く私たちも、この機会を労働環境改善のチャンスととらえ、「私たちのあるべき賃金水準」の実現にむけて、積極的に賃金交渉に取り組んでいきましょう!
建設産業をとりまく環境に明るい兆し
◆ 建設産業をとりまく社会情勢
2014年の賃金交渉を迎えるにあたり、私たちをとりまく情勢をみてみます。アメリカの金融緩和縮小による影響、中国や新興国の先行き不透明感などによる懸念材料は残るものの、日本経済は、政府の経済政策などにより、2014年3月期は7割近い企業が増収増益を見込み、設備投資が非製造業を中心に持ち直すなど緩やかに回復しています。
私たち建設産業をとりまく情勢は、引き続き資材や労務費高騰による工事採算悪化の懸念もあり楽観視できないものの、2013年度の建設投資は前年度比12.7%増の49兆4,500億円、2014年度は48兆9,200億円を見込み、2012年度以前と比較して増加しています(図1)。また、日建連会員企業の受注も堅調に回復しており(図2)、総じて建設産業をとりまく環境は好転しつつあると言えます。
◆ 国や業界団体の取り組み
国や業界団体は、適正な価格や適正な工期での受発注に関し政策や取り組み方針を示すなど、建設産業の魅力化にむけて積極的に取り組んでいます。主な取り組みを紹介します。
国土交通省
・公共工事において適正な価格での発注のために
⇒2013年3月公共工事設計労務単価15%引き上げ実施
2014年2月より全職種平均7.1%上乗せ
・民間発注者団体に対し適正な価格での工事発注を要請
業界団体
「民間工事における適正な受注活動の徹底に関する決議」にて、業界団体として決意表明
1.適正価格での受注の徹底
2.適正工期の確保
3.適正な契約条件の確保
私たちの賃金水準はけっして高くはない~組合員の家計は苦しい
日建協加盟組合の賃金水準を年収ベースで他産業と比較してみましょう(図3)。30代では、日建協の賃金水準は他産業と比較して同水準にあります。しかし年代が上がるにつれて年収の差が広がっていく傾向にあります。建設産業が魅力ある産業であり続けるためにも、他産業の賃金水準に一刻も早く追いつく必要があります。
日建協のアンケートから年代別に男性既婚者の家計の状況を見てみましょう(図4)。
30代以下では、家計が苦しいと答えた組合員が3割以下であるのに対し、子供の教育などにお金がかかる40代以上では、その割合が高くなり、特に50代前半では、半数以上が生活が苦しいと答えています。
年代による必要生計費という観点からの賃金水準の向上を考えることも合わせて必要になります。
賃上げにむけて、政労使も動き出す!
連合は「物価が上昇し税負担が高まるなかで国民の所得が増えなければ、社会は混乱に陥る」「一時金による所得増は消費に回らない」と指摘し、月例賃金の底上げにこだわる考えを表明しました。具体的には、2014年の春季労使交渉では全組合員の基本給を一律1%以上引き上げるベア要求を2009年以来5年ぶりに統一要求する方針を決定しました。また、安倍晋三首相は、今年1月の年頭記者会見で「この春こそ景気回復の実感を収入アップという形で国民に届けたい」と語りました。これ以外にも2013年は「デフレ脱却」をめざし、政府が企業の賃上げについて前向きな発言を繰り返した年でした。政府の賃上げに対する積極的な姿勢や好調な企業業績を背景に経団連も、賃上げの必要性を認め、なお慎重な姿勢ながら賃金水準を底上げするベースアップ(ベア)を6年ぶりに容認する方針を打ち出しました。
このような中で、労働組合の中には自動車や電機産業など「ベア」を要求する組合も目立ち始めました。数年来、賃上げといえば一時金要求のみという状況のなか、これもまた私たちの賃上げにむけての明るい兆しではないでしょうか。
では、「ベア」とはどういうものでしょう? 次章で「ベア」について考えてみたいと思います。
経営者、組合員の立場からベースアップについて考えよう!
私たちに毎月支給される月例賃金は、日々安定した生活を営むための基盤となる大切な賃金です。企業の業績などに左右される賞与に頼ることなく、月々の賃金で安定した生活を送ることができる賃金水準が理想的です。ここでは、月例賃金を構成する基本給の水準引き上げであるベースアップについて考えてみます。
◆ ベースアップ(ベア)とは
英語のbase(基準)とup(上へ)を組み合わせた和製英語で、賃金の基準を上げるという意味です。ベースアップとは、物価上昇への対応・企業業績向上の反映・他社や世間相場との調整などを目的に、賃金表の増額書き換えによって行う水準引き上げのことです。例えばベア1%が行われると、図5のように25歳の人も30歳の人も各々基本給の1%が上がるので、その会社の賃金水準が全体的に上がります。一方で年齢や勤続年数を重ねるごとに、賃金が自動的に上がっていく制度が定期昇給(定昇)です。代表的な例が、1歳年をとると1年先輩と同額の給料をもらえる場合で、定昇が凍結されると実質的な賃下げになります。
◆ 経営者から見たベア
経営者は従業員の頑張りや会社への貢献に対して、賃金で報いたいと考えているはずです。しかし、実際は賃金決定に際し企業業績を考慮する経営者が多く(図6)、賃上げに慎重な経営者が多いのも事実です。特にベアにはより慎重になる傾向があります。その理由を考えてみます。
① 月例賃金は下げづらい
景気がいいからといって、給料を一旦上げてしまうと業績が悪化した時に、賃金を下げることが非常に難しくなります。これが人件費の固定化につながり、将来的な経営リスクになる恐れがあります。経営者は業績により支給額を増やしたり減らしたりできる賞与で、賃上げに対応したいと考えるのもこのためです。
② 企業としてコストが増える
企業は、人件費を総額人件費として考えます。総額人件費とは、所定内給与(基本給)・所定外給与・賞与・福利厚生費など従業員を雇用する場合にかかる全コストを言います。ベアを行うと、企業の総額人件費は増加します。所定内給与を100とした場合、総額人件費は164.6と試算されています(図7)。例えば、社員一人あたり1,000円のベアを実施した場合、他の人件費項目も連動して増え、最終的には1,000円のベアの他に、646円程度のコスト増になります。
◆ 組合員から見たベア
① 安定した生活につながる
月例賃金は、私たちにとって日々の生活を支える生活給であり、たとえ企業の業績が悪くなったからといって簡単に減らされてもよいという性格のものではありません。このため、私たちが賃金交渉で勝ち取ったベアは将来にわたる安定した生活につながります。
② 実質賃金が増える
組合員にとってベアが実現すると、基本給のアップ以外に残業代や休日出勤した場合の賃金の時間当たりの支給額の増加により、実際に支給される月々の賃金が増えます。また、企業の中には一時金や退職金の支給額の算出根拠として基本給を基準にしているところもあります。
産業の誇りを胸に! 未来をつかめ! ~2014年賃金交渉基本構想
◆ 建設産業のあるべき賃金水準をめざして
今回の特集では、ベアから月例賃金について考えてみました。生活に大きな影響を与える物価が上昇局面であり(図8)、政府も「デフレ脱却」をめざし、様々な政策に取り組んでいることから、今後も引き続き物価が上昇することが予想されます。また、4月からは消費税が5%から8%に上がります(2015年10月には10%へ上がる予定)。シンクタンクなどの試算でも、私たちの家計への負担が増えることが予想されています(図9)。私たちの安定した生活のためにも、月例賃金の増額をともなう年収ベースでの賃金水準の向上が必要です。 日建協の定める「日建協個別賃金」の年収および月例賃金の賃金水準をめざし、加盟組合が連帯して建設産業で働く私たちのあるべき賃金水準達成のために取り組んでいきましょう。
◆ 2014年賃金交渉基本構想
日建協第2回代表者会議にて、賃金交渉基本構想が可決承認されました。この賃金交渉基本構想をもとに、加盟組合が連帯して建設産業のあるべき賃金水準の実現に取り組みます。