知っておくと役に立つ労働組合のしくみB
組合なんて無縁だと思っているあなたへ
日本の企業社会を系統立てて見てみると、どこの業界にも経営者団体というものがあります。私たちの建設業界で言うと、日建連や土工協、全建、建築協などがそうです。(ただ同じような組織が三つも四つもあるのは建設業界特有のものかもしれません。)そして日本全体の経済界をまとめるという意味で、各種の経営者団体の上に、経団連や日経連のような経済団体があります。
これと同じような仕組みが労働界にもあって、規模の小さい順に並べると、単組→産別→ナショナルセンターとなるわけです。今年度のコンパスでは、日本を代表するナショナルセンターである「連合」や、産別組織の役割について何回かに分けて説明してきました。
しかし、もっと根本である「組合」とは何か、組合運動とはどういうものか、という点についてはあまり触れてこなかったように思います。今回はその根本の問題について、考えてみましょう。
今年の新入社員や、新入組合員歓迎会には出たけれど、その後組合とは全く無縁でいる、というような若い社員にもわかるように説明するつもりです。ですからもしかしたら経験豊富な人々にとっては、何をいまさらという感想を持たれてしまうかもしれませんが、最後まで目を通してください。
本当は経営者側が圧倒的に強い
組合はなぜあるのでしょうか
いきなり大きなテーマで、戸惑ってしまうかもしれませんが、少し我慢して読み進めてください。
組合関係の本を開くと、最初は労働組合の歴史から始まっているものが多いと思います。私もそこから書き始めようとしましたが、限られたスペースではとても書ききれないことと、労働運動をめざそうと思っている人間以外には、退屈なものになってしまいそうなのでやめます。しかし、なぜ労働組合ができたかということについては、少し触れてみたいと思います。
これは非常に簡単なことで、私たちは必ず誰かに雇われています。当然私たちの雇用条件をどうするかの権限は、雇う側にあります。するとどういうことが起こるでしょうか。経営者は会社の業績を見ながら、自由に労働者を増やしたり減らしたり、また支払う賃金もできるだけ安くしようとするでしょう。当然それに対し労働者は抵抗したくなります。しかし、働きたい人が余っている状態では、経営者に抵抗した人間には解雇の道しか残されていません。そして、いつの世でも失業者はいるわけですから、常に需給バランスは経営者側に有利に働いています。これでは生殺与奪をすべて経営者に握られていることになり、労働者はたまったものではありません。
そこで、労働者は集まって一つの組織を作りました。そして労働者の供給等に対して、この組織が一定の影響力を持つようにしたのです。そうすると経営者は、事業を円滑に進めるためには、労働者の賃金を決めるにしても新しく人を雇うにしても、この組織と話し合わなくてはなりません。こうして労働組合が誕生しました。(注1)
よく最近の組合執行部は「労使対等」という表現を使いますが、実は決して労使は対等ではなく経営者側のほうが強いのです。これは組合誕生の理由を考えれば一目瞭然です。労働者が力をつけ団結することによって、かろうじて対等になるのです。子供の頃遊んだシーソーを考えてもらえばわかると思います。乗っているのは経営者と労働者です。どちらが重いでしょうか。当然会社側のほうが重いのです。ですからなにもしなければ会社はどっかりと地面に着地していて、労働者のほうは宙に浮いた状態になってしまいます。このとき会社が自分から負荷を軽くして労使を対等にしようとなんてしてくれません。労働者がかたまって絶えずプレッシャーをかけつづけることによって、やっとつりあいが取れ、お互いがバランスされるのです。
(注T)
企業内組合(組合の構成員が単一企業の職員のみ)がほとんどである日本の常識で判断すると誤解を生むので注意してください。欧米諸国の労働組合は、企業と関係なく、同じような職種の労働者で組織されている組合がほとんどです。当然賃金などの団体交渉は、社外の組合役員が、個々の会社や、同種の企業が集まった経営者団体のような組織と行います。
if …… 組合がなかったら
組合なんてなくてもそんなに困らないんじゃない?
最近組合関係の会議になると、必ずといっていいほど出てくる話題は、「組合員の組合離れ」と「組合の活性化」です。そして、これも必ずといっていいほど結論が出ないのです。この問題について少し考えてみましょう。
皆さんは組合費を払っていながら、どうして組合の活動に積極的になれないのでしょうか。仕事が忙しいとか、勤務時間以外の時間を拘束されたくないとか、きっと理由はいくつもあるでしょう。組合とは、支部や本部の役員のことで、自分たちとは関係ないものだと考えている方もいるかもしれません。ここで皆さんに考えてもらいたいのは、「組合」という単語の定義です。私は「組合」という単語には、二つの意味が含まれていると思っています。
一つは、所属している組合員全てを含む組織そのものという意味です。二つ目は、組合役員つまり執行部を意味します。本来は前者の意味しかなかったはずなのに、だんだん組合執行部の仕事が専門化してくるにつれて、後者の意味合いが強くなってきてしまったのです。皆さんが「組合はなにもしてくれない。」というときの組合はきっと二番目の意味なのでしょう。しかし、そのなにもしてくれない組合には、もともとあなたも含まれているのです。そのことを考えてほしいと思います。
さて、皆さんの会社が順調で、賃金もそこそこ上がるし、福利厚生もしっかりしている、特にいやな上司もいないし問題ないよ、と感じているとすれば、もしかしたら組合がなくてもいいかもしれません。(私はそうは思っていませんが…。)しかし現実にはそんなことはないでしょう。私はなにもバブル崩壊後のことをいっているのではありません。あの空前絶後の好調時でさえも、労働者は経営者=会社に対して何らかの問題意識を持っていたはずです。そしてその解決手段として組合という組織を使っていたのです。
今あなたの会社に組合がなかったとしましょう。するとどんなことが起こるでしょうか。一人一人の労働者は、先ほどのシーソーで言えば、経営者の強大な重さに負けて地面も見えないはるか空中まで持ち上げられ、不安な気持ちで日々を過ごさなければならないことは間違いないでしょう。そしてもっと不安なのは、そのシーソーに乗っているのが誰なのかすらわからないことなのです。また、地面についている経営者がちょっと体をゆすっただけで、はるか空中にあるシーソーの先端は大きく震え、何人かが振り落とされてしまいます。運良く今日はしがみついて落ちなかったとしても、次にくる振動で落ちてしまうかも知れず、そもそもいつ振動がくるかもわからない状態が続きます。こんなことで労働者の生産性が上がるはずがないのです。
たしかに、いくつかの企業ではリストラという名の人員削減が行われてきましたし、これからもまた実施されるかもしれません。しかし組合があるからこそ、企業は組合と協議を行い、組合は限られた選択肢しかないにしても、そのなかでより合理性、納得性の高い施策を企業側に求めることができるのです。
組合は本当に何もしてくれないか 皆さんが組合という組織に期待している役割はなんでしょうか。それは今一番困っていることの解決でしょう。だとしたら、年収が増えるどころか減るばっかりで、将来の生活設計ができないことや、土曜日はおろか、日曜日も仕事をしないと工期が守れないことや、独身寮がどんどん減ってきて、生活の拠点を心配しなければならなくなったことなど、今一番困っていることをいろいろな場所で、声を大にして発言してください。どうせ言っても変わらないからと諦めていませんか。言っても変わらないからといって言わなければ絶対変わりません。肝心なのは、組合が何をしてくれるかではなく、皆さんが組合に何をさせるかなのです。
たしかに私たちは、明日食べる米には困っていません。しかし「明日食べる米に困らない」ということは、10年後、20年後食べる米に困らないことの保証にはならないのです。
皆さんこそが次の主役です
組合からの2つのお願い
最後に、これだけは実行してほしいというお願いを二つしたいと思います。
まず最初は、発言をしてほしいということです。選挙のときになるとマスコミによく登場する言葉に、サイレントマジョリティーというものがあります。これは自らの意思を明確に示さない中道的な多数派という意味ですが、皆さんはこうなってはいけません。組合という組織の一員として、執行部の考えや行動に対して、自らの考えや疑問をぶつけてください。もちろん忙しい業務を抱えているのですから、日常的にしてほしいとは言いません。それぞれの組合によってやり方は様々でしょうが、職場会やオルグという活動が年に必ず何回かあるはずです。その場に出席することがまず最初ですが、出席するだけでなく自分の考えを積極的に示してほしいのです。それが皆さんにとっての組合活動なのです。
日建協に所属している組合の本部・支部役員は全国で約2700人います。比率だけを見ると組合員数の5%弱ですが、組合執行部がある一定の年齢層で構成されていることを考えると、近い将来あなたに執行部へ入ってほしいという依頼が必ずくるでしょう。その時は尻込みせず、ぜひ積極的に参加してほしいと思います。これが2番目のお願いです。たしかに執行部になることによって、それまでの仕事を減らしてもらえるわけではないのですから、負担が大きくなるだけだという考えもあるでしょう。しかし組合活動は、それでも参画する価値があるものだと思っています。個人的な経験で恐縮ですが、私は30歳のときから4年間支部役員を経験しました。それまで建築現場で仕事をしていましたから、ほとんど組合活動には参加していなかったのは、もしかしたら皆さんと同じだったかもしれません。その4年間で感じたことはいくつかあるのですが、特に自分のいる職場を客観的に見られるようになったことが、一番の収穫だったように思います。これは私にとって、とても大きな発見でした。皆さんも組合と積極的に関わっていくことで、今まで心の中にしまわれていた新しい考え方を見つけてほしいと思います。
できるだけ簡単にしようと思っていましたが、少し話が難しくなってしまったかもしれません。こういうテーマは話を難しくするのは簡単で、わかりやすい話にまとめるほうが難しいのですが、ともかく最後まで読んでいただきましてありがとうございました。■
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