建設なんだろう?
「これってなんだろう?」
コンパスでは、これまで建設産業のなかにあって不思議に思うことを取り上げてきました。建設技術だけでなく、建設現場で働く人たちの服装など、私たちの身近にあるなぜだろう、なんだろうをとりあげてきました。
今回は、建設現場のなかにちょっと目を向けてみました。



建設現場のなかに動物がいるの?
   ネコ、イヌ、サル、ウマ、トラ
地震がきても大丈夫?
   免震構造と制震構造

建設現場のなかに動物がいるの?

私たちが働いている建設現場のなかにどんな動物がいるのでしょうか。もちろん当たり前の話ですが、本物の動物がいるわけではありません。しかし、私たちが働く身近には、さまざまな動物にまつわる言葉があります。そこで今回は、普段何気なく使われている建設現場での言葉のなかに、どれだけの、どんな動物がいるのか取り上げてみます。



みなさんが建設現場のなかですぐに思い浮かべる動物といえば、やはり「ねこ」ではないかと思います。みなさんご存知のとおり現場内で使用する、箱の前に1個の車輪を付け、後部の柄を持ち上げて動かす手押しの一輪車で「ねこ」と呼ばれる猫車、つまりカートです。江戸時代にも、たんに「ねこ」と呼ばれた木製の配達用の手押し車があり、猫車という呼び名も当時からのものだそうです。



「ねこ」がいれば、「いぬ」もどこかにいないのかと探してみると、ちゃんと「いぬ」もいます。レールを枕木に固定するために使われる釘を「犬釘」と呼びます。スパイキと呼ばれる釘のことです。
建設現場のなかとは話が外れてしまいますが、「いぬ」と「ねこ」は建築用語のなかにまだ見ることができます。人の通路あるいは雨の跳ね返りから外壁の汚れを防ぐなどの理由で、建物の外壁に沿ってコンクリートや砂利で作られた通路上の土間を「犬走り」と呼びます。そして屋内に目を向けると、障子のなかに小さな障子を組み込んで二重構造とした障子を「猫間障子」と呼びます。そのほかに劇場の天井裏などに設置され、設備の点検などのために設ける狭い通路に「キャットウォーク」と呼ばれるものがあります。

                 

話を建設現場のなかに戻します。犬猿の仲と言う言葉がありますが、「いぬ」が出てくるならば「さる」もまけじとでてきます。ナットを挟み込む幅がねじの調節で変えられ、締めたり緩めたりする工具はご存知の「モンキーレンチ」の「さる」があります。建設現場に限らず、すぐ身近にありみなさん一度は手にとったことがあるでしょう。その外に、二本の堅棒に足掛かりの横棒を一定間隔で組み込んだ、ごく一般的な簡便なはしごを「猿梯子」と呼びます。



「いぬ」「さる」と続きましたので、干支シリーズで見ていってみましょう。では干支をさかのぼって次に「うま」を探してみます。建設現場内で、足場板などを架け渡すための4本足の台や、鉄筋を曲げて作った配筋のためのスペーサなど、長い棒状のものを仮に乗せておくための足のついた受台一般のことを「馬」といいます。



さらにさかのぼっていって今度は、「とら」を探してみましょう。建設現場に限らず街なかや、みなさんの身近なところで別の意味での「とら」をみつけることができると思います。しかし、ここでは建設現場のなかから探してみたいと思います。すると、みなさんご存知のものがあるではありませんか、そう黄色と黒のしましま模様のものが、そうです「とらロープ」と呼ばれるものです。こうして「とら」も建設現場のなかから現れました。また、ものの本によりますと、主に仮設として設置され自立できない搭状のものを支えるためにその頭部から張ったロープのことを「虎綱」とよばれています。これは控え綱と呼ばれるもので、合わせて紹介しておきます。

ごく一例だけ取り上げてみましたが、私たちの働く身近にたくさんの動物たちがいることにお気づきでしょう。

地震がきても大丈夫?

最近、海外で大きな地震があいついで起こっています。その状況がテレビ、新聞などでさまざまに報道されています。私たちの住む日本も地震大国であり、地震についてさまざまな努力が行われていることは、みなさんご承知のとおりです。

建物の硬さ

まず、ビルが地上に建っている限り、地面が動く地震によって建物がゆれることは避けられません。この地震に耐える方法として、10階建てぐらいの建物では、地震による大きな力に対して建物を丈夫にして抵抗します。これを剛構造と呼びます。ほとんどの建物はこれに該当します。これは、1963年(昭和38年)まで、建物の高さは31メートルに制限されていました。このころは、地震動の観測結果も十分ではなく、建物の揺れるようすを現在のようにコンピューターでシミュレーションすることができなかったため、地震に対して建物が壊れないようにするには、低層で剛に造るべきとする考え方が主流であったところからきています。

これに対して、地震の揺れに抵抗するのではなく、揺れをかわす方法があります。まずは、柔構造と呼ばれ、地震に対して建物全体をくねくねと変形させることにより、建物に作用する力を分散して、大きな力がかからないようにする方法です。ちょっと想像してみてください。長い棒を手に持って左右に振ったときに、長い棒はすばやく動かすとあまり揺れないことに気づくことと思います。この原理を設計の基本的な考えに利用して、超高層の建物は建てられています。


そのほかに、地震から建物とそのなかにある大切な命・財産を守る技術として考案されてきたものに、免震構造と制振構造があります。ここではその1つ「免震構造」を取り上げてみたいと思います。
これは、地盤と建物の間に特殊な装置を置いてゴムで地震の揺れを吸収したり、滑る素材を使って地面だけを勝手に動かしてしまうことにより地震のときの揺れを建物に伝わりにくくします。この免震構造を使った免震建物について覗いて見ましょう。

免震工法が使われるのはおおむね5階建て以下の低層建物に用いられます。地盤と建物の基礎の間にスペースを設け、そこに免震装置をつけます。免震工法の建物では、免震装置に水平方向の変形が集中するので注意が必要です。つまり、地盤と基礎の間で大きな変位差が生じますから、建物の周囲に変形の逃げのスペースを設けたり、設備関係の配管に追従できるようにしておくことが必要です。

それでは、免震工法の主なものを紹介します。1つは、「積層ゴム方式」です。これは、薄いゴムシートと鋼板を交互に貼りあわせたもので、地震時にはこの装置が水平方向にしなることで建物に伝わる揺れを緩やかにします。もう1つは、「すべり方式」でフライパンなどで使われるテフロンとステンレス板でできており、たいへん滑りやすくなっています。この装置を基礎の下に設置し、建物を滑らせて、地面の揺れを建物に伝わりにくくします。

日本ではすでに300棟以上の免震建築が建てられており、地震時に効果のあることが確認されています。これからもさまざまな技術改良が進み、地震の不安を少しでも和らげることができるようになると思います。

今回は現場のなかの動物たちと免震工法の基本を取り上げてみました。みなさんも路上や家庭のなかでいろいろな不思議を見つけてみてはいかがでしょう。意外にたくさんの不思議が転がっているかもしれません。では、またいつかお会いしましょう。




参考資料
建築現場おもしろ辞典 建築用語編集委員会著/且R海堂
朝日現代用語「知恵蔵」'99
建築・土木のことがわかる事典 ACEネットワーク著/叶シ東社
週刊朝日コラム「大いに成るほど」99.7.30号




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