ぐっと身近になったワイン
ワインの効用
ワイン離れ、フランスでの意外な事実
フランスでのワインの歴史
ボルドーワイン
ブランドにあぐらをかくオーナーは淘汰される
ブルゴーニュワイン
ブルゴーニュは生産者で選べ


年末年始、旅行、お祝い、法事、お盆、帰省、食事、付き合いなどなど、なにかとお酒を飲む機会は多いものです。建設産業にとってお酒は、地鎮祭での奉献酒から日々の飲ミュニケーションまで、切っても切れない関係にあるものと思います。

さて、ビール、日本酒、焼酎、ウィスキーなど数あるお酒の中でワインは、最近、居酒屋で、また週末に自宅で飲まれる方も増え、高級レストランで飲む特別なお酒というイメージより、むしろカジュアルに楽しめるお酒として定着してきています。毎年11月に解禁しているフランス産の新酒赤ワイン「ボージョレ・ヌーボー」の昨年の輸入量を見ても、一昨年より5万箱(1箱=750ml瓶12本)多い約60万箱と過去最高となっています。また、ワインバブルとも言えるような一時のブームも去り、手頃な値段で世界各地の美味しいワインが手に入りやすくなっています。

しかし、身近になったとはいえ、ワインは銘柄一つを選ぶにしても、生産国、生産地、ブドウの品種から辛口、甘口といった飲み口まで、非常に難解でとっつきづらい、と思っている方も多いのではないでしょうか。
今回の特集では、「お酒の基礎知識」としてワインをテーマに、巷でよく耳にする健康への効用、そしてワインと言ったらフランスを連想される方も多いと思いますので、フランスワインについて“ものづくり”という視点でお話したいと思います。

   contents

●●ワインの効用●●
〜ワイン離れ、フランスでの以外な事実〜

 フランスやイタリアに全く及ばないものの、日本の1人当たりのワイン消費量は、90年代に飛躍的に伸び、最近のデータでは年間約2リットル消費しています。この傾向は、日本人の健康への関心が年々高まっていることに起因しています。そのきっかけとなったのは、動物性脂肪を多く摂ると、心筋梗塞など虚血性の心臓病による死亡率が高くなるというのが通説であるのに対して、ワインを多く飲むフランス人は、この死亡率が低い、という「フレンチ・パラドックス」が疫学調査で浮上し、赤ワインに含まれるポリフェノールが注目されたことです。下の表−1は、これまでに明らかになっている赤ワインと白ワインの主な効能について、整理したものです。

表−1
効  能
悪玉コレステロールの酸化を防ぎ、動脈硬化を防ぐ
動脈硬化を招くエンドセリンの合成を抑える
血小板の凝集を抑え、血栓症になるリスクを減らす
血液の流れをよくし、速度や流量を減らす
平滑筋細胞の増殖を抑え、動脈硬化の進行を防ぐ可能性がある
脂肪の吸収を抑える
ピロリ菌への殺菌作用があり、胃ガンなどを減らす
ポリフェノールの一種であるリスベラトロールが、ガンの細胞死を招き、ガンの進行を抑える
リスベラトロールは脳の細胞同士を結びつけ、記憶などの脳機能を改善する可能性がある
神経伝達物質や記憶に関係する物質を分解する酵素の働きを妨げる物質を持つ
香りに人をリラックスさせる効果がある
カリウムを多く含み、利尿作用がある
カルシウムとマグネシウムをバランスよく含み、骨そしょう症を防ぐ可能性がある
大腸菌やサルモネラ菌などへの抗菌力が強い

 これ以外にも赤ワインについては、フランスのボルドー地方の高齢者を調べた疫学調査から、ワインを飲む量と脳血管障害、脳神経障害などとの関係が報告され、痴呆症に対する抑制効果が、最近注目されています。報告によるとワインを適量に飲む人は、飲まない人に比べ、認識障害が少なく、アルツハイマー症の発症率は約4分の1、その他の痴呆症でも約5分の1でした。さらにこの調査期間中の死亡率についても約30%低かったそうです。この報告に関しては、一般に飲酒量と死亡率との間には「Jカーブ効果」(下図参照)と呼ばれるものがあり、適量の飲酒で死亡率が最低になることから、これが痴呆症の発症などにも当てはまるとも言われています。

Jカーブ効果
1981年にイギリスのマーモットという学者が「適量のお酒を飲んでいる人の死亡率が、全く飲まない人、大量に飲む人にくらべて最も低い」という研究を発表しました。
この研究データはその後、数々の調査・研究によって裏付けされています。これは、適量の飲酒によるストレス発散などの効用や、アルコールが血液中の善玉コレステロールを増やして心筋梗塞、狭心症などの心臓病を予防する効果が原因だと考えられています。この適量飲酒がもたらす効果は、グラフが描く形から「Jカーブ効果」と呼ばれています。
だからといって、大量に飲んでは健康に逆効果です。

【注】全死亡率:病気だけでなく、事故、事件を含めたあらゆる原因による死亡率。「全く飲まない」人を1とした場合の各飲酒量毎の相対的な死亡率をグラフにすると、J型のカーブになる。

オーク(樫)樽での樽熟成。貯蔵中に荒い渋みが取れ、ワインに独特の香味を与える。
一方、ワインの大量消費国(一人当たり年間約60リットル)であるフランスでは、逆に健康志向が高まった80年代に、ワインを「飲まない人」が著しく増え、90年代前半には食事中の飲み物としての首位の座を、ボトル入ウォーターに明け渡しています。その後「飲まない人」は、さほど増えていはいませんが、「毎日飲む人」が減り、その代わりに「たまに飲む人」が増加しています。この傾向は、特に若者に顕著に見られ、その理由としては、「ワインの味が好きではない」、「ビールやカクテルなど、他の飲み物の方が好き」などが挙げられています。

とはいえ、フランス人は、日本人の消費量の約30倍を消費しており、その差は歴然としています。それでは次に、フランスにおけるワインの歴史、そして二大銘醸地であるボルドー地方、ブルゴーニュ地方での「ワイン造り」について見てみましょう。
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●●フランスでのワインの歴史

フランスにおける「ワイン造り」の歴史は、フェニキア人が、現在のマルセイユに上陸してブドウの木を植えたのが起源と言われています。その後、ローマ帝国の侵入によって、各地で「ワイン造り」は広まっていきました。

そして中世に入ると、キリスト教の布教とともに、ミサ用のワインの需要が増え、教会がブドウ畑の開墾を促しました。今ある銘醸地のブドウ畑の中にも、僧院や修道院によって開墾されたものは、決して少なくはありません。また、交通網が発達する以前は、各地でブドウが栽培され、ワインは酔うために飲料するのではなく、喉を潤す飲み物として親しまれていました。それは、ワイン離れが進んでいると言われている現在においても同様で、単なる“酒”ではなく食事中の飲み物として不可欠であり、生活必需品であることには間違いありません。


●●ボルドーワイン●●
〜ブランドに胡座(あぐら)をかくオーナーは淘汰される〜

唯一格付けが変更されたCH・ムートン・ロートシルト。毎年変わる著名画家によるエチケットも話題を呼ぶ。右のボトルは1991年。エチケットは日本人画家のSETSUKO(巨匠バルテュス夫人)によるもの。
マニア垂涎の的である多くの銘ワインを産出する銘醸地として有名なボルドー。CH.ぺトリュスやCH.ディケムといった最高峰や、ヘミングウェイが孫娘にマーゴ(ハリウッド女優のマーゴ・ヘミングウェイ)と名付けるほど愛し、また小説「失楽園」で有名なCH.マルゴー、そしてCH.ラトゥールなどの5大シャトー(*1)を有しています。フランスでのワインのグレードは、エチケット(ラベルのこと)に書いている銘柄が、地域名(ボルドー地方etc.)、地区名(メドック地区etc.)、村名(ポイヤック村etc.)、畑名(ラトゥールetc.)という具合に、地域が狭く限定されていくほど高級になります。

ボルドー全体で約7,000あると言われるシャトー、その中でメドック地区の赤ワイン上位61シャトーは、5大シャトーを筆頭に1〜5級まで格付けされ、『グラン・クリュ・クラッセ(特別級)』と呼ばれ、ボルドーワイン界の貴族的な存在として位置付けられています。

しかし、この格付けは1855年のパリ万国博覧会で発表されて以来、たった一度、それも1シャトーに変更が加えられただけです。しかも、当初の格付け作業を行ったクリティエと呼ばれるワインブローカーたちは、当時の取引価格を目安にして決めています。それから150年が経過した現在、オーナーがまったく変わらずにいるのは、CH.ムートン・ロートシルトとCH.レオヴィル・バルトンだけです。この間にブドウ畑を他のシャトーへ売ってしまったり、相続の関係で畑が分割されたり、さらにCH.デュビニョンのように消滅してしまったシャトーもあります。

果たして、この格付けを本当に「不磨の大典」として信じて良いのでしょうか。格付け以外にもヴィンテージ(*2)・チャートなる地域・年毎の品質を判断する一応の目安はありますが、実際にどうかというと、飲んでみなければその良し悪しは分からないというのが事実です。私も何度かがっかりさせられた経験があります。

日本では棚式栽培が一般的だが、欧米などでは、ブドウにより多くの太陽の光を浴びさせるため垣根式で栽培している。
そこで一躍脚光を浴びているのが、ワイン鑑定家と言われる人々の存在です。中でも、弁護士をしていたロバート・M・パーカーJr.の評価は、市場価格に影響を与え、彼が高得点を付けたワインの値は高騰し、その味を真似る生産者も出てくる始末です。彼の評価そのものについては、功罪があると思います。しかし、第3者評価を確立したことに関しては、ワイン産業にとって新たなルールを構築したという点では功績として評価すべきでしょう。

彼曰く「ワインの品質は、人的要素が大きく、たとえ5級のシャトーでも造り手次第では1級クラスの味になりうる。等級やシャトー間の違いというものは、極めて微妙なもので、例えば、選別の度合いひとつで大きく変わる。オーナーが厳選せず手当たり次第に市場に流したり、汚れた樽を使用したりすれば、シャトーの評価など、下がるのは当然」。そして、彼は、名門シャトーの手抜きに対して、ことのほか手厳しい評価をくだしています。

それでは、いったい何を評価しているのでしょうか。第一に言えるのは、やはりシャトーの「ワイン造り」に対する情熱です。それは製造の近代化が進む中で、機械に頼ってはいけない、または、現在の技術レベルでは導入することで良い結果を生まないプロセスが有り、それを労を惜しまずにやるか、やらないかにかかっています。例えば、日々の剪定(せんてい)作業(*3)、収穫時にブドウの房を一つひとつ丁寧に手摘みで行うことや、ワインの透明度を上げるプロセスにおいてフィルター濾過をせず、昔ながらの技法であるスティラージュ(引き)という手間のかかる作業を数多く繰り返すことなどが挙げられます。特に、フィルター濾過に関しては、澱が全部取り除かれてしまい、ワイン本来の味が薄まってしまうことによりワインを台無しにしています。

このような手間ひまかかる作業によって、長期熟成に耐えうるワインが生まれ、飲む人に感動と喜びを与え、そして、それがシャトーの評価に繋がるのです。
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●●ブルゴーニュワイン●●
〜ブルゴーニュは生産者で選べ〜

熟成用ステンレスタンク。酸化防止の装置を完備。(写真:CH.LATOUR公式サイト)
ブルゴーニュ地方と言うと、赤ワインでは有名なロマネ・コンティや、ナポレオンがこよなく愛したシャンベルタン、白ワインにおいては最高峰のモンラッシェ、そしてシャブリ、と数多くの銘醸ワインを産出しています。しかし厄介なことは、お気に入りのワインを選ぶのが、容易ではないことです。

それは、ボルドーワインのようにシャトー、すなわちそのブドウ畑が作り手に直結するわけではなく、ロマネ・コンティのようなモノポール(単独所有)は別として、ひとつのブドウ畑を何人もの造り手が所有しているためです。例えばコート・ド・ニュイのあるクロ・ド・ヴージョという特級畑(50ヘクタール)には、80人もの所有者がいます。
なぜこのようなことになったかについては、少しばかり歴史のおさらいをする必要があります。

5大シャトーの中で、男性的と表現されるCH.ラトゥール
(写真:CH.LATOUR公式サイト)
赤ワイン品種のカベルネ・ソーヴィニヨン。非常にコクがあり、十分熟成させると華やかな香りあるワインとなる。地表の丸石は、日中太陽の光を浴び熱を蓄え、その輻射熱でブドウを完熟させる。(写真:CH.LATOUR公式サイト)
ブルゴーニュ地方のブドウ畑は、貴族やブルジョアジーが所有していたボルドー地方とは異なり、その多くがシトー派修道院の持ち物でした。フランス革命の時に、それらのブドウ畑は教会財産として国庫に没収され後に、革命政府の財政として民間に売却されました。ところが、その後に制定されたナポレオン法典は均分相続制を定めたことによって、畑の持ち主は遺産相続の際、子供の数だけ畑を均等に分け与えなければならなく、さらにその子が孫に相続する際にまた分割され、またさらに曾孫の代に...と細分化されていきました。その間にブドウ畑は売買され、さまざまな所有者が生まれてきたのです。

それでは、前述のシャンベルタン、ヴィンテージによる影響を無視したとして、同じ畑なのだから、どれを買っても大差はなかろう、と思ったら大間違いです。毎日畑の手入れを怠らず、厳しい剪定をして単位面積あたりの収穫量を抑え、濃縮したブドウを使い、醸造段階でも細心の注意を払って造られたものと、畑は放りっぱなし、最大限に多くのブドウを実らせ、水っぽいブドウを使い、適当に造られたものでは、おのずから違ってきます。

わかりやすく言うと、造り手によっては、特級畑より格下の1級畑のワインが、他の造り手の同じ地域の特級ワインを上回ることも十分にあり得ます。実際に、もっと格下の村名のワインが何万円もすることがあります。だから、よく言われる言葉で「ブルゴーニュは生産者で選べ」ということです。
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●●最後に●●

みなさん、フランスでの「ワイン造り」に関してどう思われましたか。造るものは違っても“ものづくり”という行為、そして情熱ということでは、建設産業で働く私たちも共感できる点は多く、大差はないのではないか思います。しかし、そこに隔たりを感じるのは、適正に評価され、その行為が報われるかどうかということです。残念ながら現在の私たちを取り巻く環境は、真面目にひたむきに働く者に対して、必ずしもそうではないことです。日建協は、この環境を変えていくため、今年もみなさんと一緒に引き続き取り組んでいきます。(青池貞幸)

<参考資料>
講談社 「ワインを気軽に楽しむ」 浅井宇介 監修
マガジンハウス BRUTUS 338号(1997.6/15)
日本経済新聞夕刊( 2002.10/17 ) 世界の話題−フランス 山辺知子
朝日新聞朝刊( 2002.2/25) ワインの効用 適量なら「若さ」の味方(元気からだ)


<関連ホームページ>
メルシャンホームページ エンジョイタイム お酒との正しい付き合い方 お酒と医学
キリンビールホームページ お酒を知る楽しむ お酒の知識 お酒と健康ABC辞典


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