現代も生きる風水

八卦牌:風水師にしか供給できないマジックミラー 羅針:風水師はこのツールを駆使して仕事をする
 お隣の中国、香港、台湾、シンガポールなどでは、現に風水が生活テクノロジーとして活躍しています。家を建てたり、都市計画をしたり、店の新規開店やオフィスの配置にまでも、風水のコンサルタントである風水師がさまざまなアドバイスをしており、その権威は絶対です。たとえば、発注者と設計家と風水師の意見が衝突したとしましょう。そのときは風水師の意見が優先されるのです。日本ではまったくありえないことです。
 香港では店先やマンションの窓に「八卦牌(はっかひ)」がたくさんぶら下がっています。これは八角形をした板で、中央にの鏡がついていて、鏡の周りに易の卦(け)が八種類描かれています。邪気をはね返えし、凶相を吉に転じるマジックミラーなのです。ある地区では住民の対立から互いに呪詛(じゅそ)しあうので、八卦牌だらけなのだそうです。

左の鋭い刀のような建物が中国銀行。右は対抗する香港上海銀行 「水」の建築であるルーブル美術館と、「火」の建築であるピラミッド
 ビジネスの世界も同様で、刃物のように鋭い角のような形をもつ、中国銀行ビルに攻められた香港上海銀行ビルは、対抗としてさまざまな工夫を凝らし、中国銀行へ向けて八卦牌をかけたと言われています。この風水戦争で香港の風水先生は有名になり、今や世界中からコンサルタントの依頼がくるようになりました。パリのルーブル美術館のガラスのピラミッドをご存知でしょうか。これは、中国銀行を担当した中国人建築家によって設計されました。風水的に、ルーブルの建築と完全にバランスが取れています。風水師は西洋の科学や医学を導入し、新しいリビング風水やビジネス風水をつくりあげています。
 

 風水について、89年から91年までの間、文部省の科学研究費が支給され、前2年間を都立大学社会人類学・渡邊欣雄教授、後の2年間は琉球大学地理人類学・町田宗博助教授を中心にして人類学、民俗学、地理学、建築学、歴史学等の諸方面からそれぞれが理解しうる学際的研究対象として風水が共同研究されました。風水は補助金がついて研究されるような学問だったのです。

 ざっと駆け足で風水の世界をご案内しました。風水で使う専門的な道具は本文中に取り上げるのを極力避けました。内容が専門的すぎるので、興味のある方は書籍をご覧ください。正直なところ風水がこれほど間口が広く、奥行きが深いとは知りませんでした。
 複合的な風水を考えながら、旅行したり模様替えをしたりするのも楽しいかもしれませんね。■

この記事はCompass721号に掲載されたものに加筆しました。

参考資料
「風水 気の景観地理学」渡邊欣雄/人文書院
「風水 原理を生かす」ラム・カム・チュアン/産調出版
「風水先生 地相占術の驚異」荒俣 宏/集英社文庫
「異都発掘 新東京物語」荒俣 宏/集英社文庫
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