先輩訪問 新しいロールモデルを求めて
日建協では2015年度の女性技術者会議での 「ロールモデルが少ない」 という意見を受けて、新入社員の女性技術者がロールモデルとなる先輩を訪問し、インタビューすることで、将来像を感じてもらう企画を実施しました。その模様をレポートします。
東京駅からバスに揺られて90分。
茨城県南東部の地にて、自身初の作業所長として奮闘中の五洋建設労働組合の黒木由佳さんのもとを、東洋建設職員労働組合の黒見友紀子さんが訪ねました。
モノを動かして形を作る仕事がしたい
黒木 : 私が建築系を志望したのは、まず最初にモノづくりをしたいという思いがあり、できれば大きいモノの方がいいという理由で、高校の時に建築系に進もうと決めました。大学に入り授業を受ける中で、図面上ではなく、実際にモノを動かして形を作る仕事をしたいと思い、設計ではなく施工職を希望しました。
黒見 : 私は大学の授業で施工の勉強したことがきっかけです。建物を作ったときに、お客様に 「あなたがいたからこの建物は建ったんだよ。」 と言われたいという思いが強くなったからです。
自分の仕事が人のためになっているんだと感じる
黒木 : 仕事で喜びを感じる場面は、施工途中にもいろいろとありますが、やはり建物が完成し、お客様に喜んでいただいた瞬間ですね。そこを目指して毎日頑張っています。
黒見 : 私は2日ほど現場を離れていたときに、作業員の方から 「見かけなかったけど、どうしたの ?」 と声をかけられたり、名前を憶えてもらえたときがうれしいです。また、現場がきれいになっていると 「女性がいるとやはり違うね。」 と言われることがあり、担当者として自分の仕事が人のためになっているんだなと感じます。
黒木 : 建物全体ということに限らず、自分の計画が形になるのはうれしいですね。小さいことで言えば職人さんの休憩所とか。最初に自分で仮設計画を立て、社旗が設置されたときには気持ちが高まりました。色々な仮設整備を終えた後に、会社の顔である社旗が掲げられたとき、 「よし、これからだ !」 という意気込みが湧いてきました。
黒見 : 今の作業所でタイルの割り付けを2か所ほど担当しました。その部分が完成したときに、同じような達成感が味わえるのかなと思っています。
黒木 : 自分が携わった部分はずっと覚えているので、後日見に行く機会があったらそのときのことを思い出しますよ。
女性に配慮しすぎるのも良くないと思うが、ある程度知ってもらう必要がある
黒見 : ヘルメット掛けや掲示物などが男性の標準的な身長で設定されている場合が多く、私は身長が低いので、何かを掲示するときにちょっとした高さでも立ち馬などを用意しないといけなくなり、ワンテンポ遅れがちになります。そんなとき、 「まだできてないの ?」 と言われて困る場合があります。不安全行動になるので、ちょっとだけ椅子に乗るというようなことはできないですし、体力・体格的な違いは理解して欲しいですね。
黒木 : 私の場合、近頃は女性ということでの配慮の必要性は感じません、周りの人をうまく使えるようになったので (笑)。ただ、体力面・体調面は全く配慮しないで良いというわけではなく、ある程度は知ってもらう必要があると思います。
黒見 : そういったことを男性上司にどう伝えたらいいでしょうか ?
黒木 : 女性の人数が少ない時代であれば、会社が対応できそうな人を上司に選ぶことなどで個別に対応できたと思います。でも、人数が増えてくるとそれも難しいので、マニュアル的なものがあった方が良いかもしれません。
黒見 : それはいいアイデアですね。
黒木 : ただ男性と同じ様に働きたいと考えている人が多いと思うので、配慮しすぎるのも良くないと思います。バランスが難しいですね。
これまでとはプレッシャーの種類が違います
黒見 : 初めて作業所長を経験されていかがですか ?
黒木 : 入社以来、所長として働きたいという希望を持っていました。今はこの現場をきちんと納めるというのが第一の目標です。これまでとはプレッシャーの種類が違いますね。不安な点は、所長としては若い方なので、作業員さんに軽視されるのではないかという思いがあって、現場の雰囲気をどう作るのかを模索中です。
施工の仕事を続けたいという反面・・・
黒見 : 育休明けで復職して施工管理に戻ることはイメージがつきますか ?
黒木 : 施工の仕事を続けたいという反面、出産などのライフイベントがあれば、仕事をセーブしなければならないタイミングは出てくると思います。でも、そこの部分の折り合いはまだつけられていません。現状では、フレックスタイム制や短時間勤務という形も選択肢に入ってくるのではないかと考えています。
千葉県西部の駅近くにある複合テナントビル作業所。産休・育休明けに施工管理として復職したフジタ職員組合の富士本佳亜さんのもとを、戸田建設職員組合の篠原里美さんが訪ねてお話を伺いました。偶然にもお二人とも九州のご出身です。富士本さんの上司である作業所長の飯野さんにも同席いただき、インタビューをしました。
産休後の復職について
篠原 : 出産後、子育てをしながら施工管理の職務に就くことが、まだ自分の中でイメージできません。復職されてどのような働き方をされているのか聞かせてください。
富士本 : 残業はせずに会社の就業時間通りに勤務しています。当然仕事の密度は濃くなって、毎日が時間に追われてあっという間に過ぎていく感じです。協力会社さんには多少迷惑を掛けているかもしれませんが、打ち合わせなどは、終了時間も決めています。
飯野 : 復職後の彼女を見ていると、限られた時間の中で効率よく仕事しているなと感じています。作業所は他の人と一緒に仕事をすることが多いので、大変なことだと思う。
富士本 : 復職して7ヶ月経ちますが、やりたいと思ってもやれない部分もありますが、限られた時間でやれることを精いっぱいやるしかないという意識で仕事をしています。作業所は繁閑もあるので、忙しい状態も区切りがあり、そこまでは頑張ろうと。時間的制約のある中で働くとしたら、そういう方法しかないと思っています。
篠原 : 私の周りでは施工管理で入社されて、結婚・出産を機に内勤に異動している人がほとんどです。そういう現状を見ると作業所での復職は難しいのかもしれないと考えてしまいます。個人的には作業所に残りたいという気持ちが強いんですよね・・・。
富士本 : 育休明けの施工管理での復職についてはケースが少ないので 「誰かがやってみないと分からないのかな。」 という思いがあって、1現場は絶対頑張ってみようと思っています。本当は作業所で働き続けたい気持ちがあるのに、結婚・出産したら内勤への異動や退職を選択するのでは、せっかく得た経験がもったいない気がします。
女性のキャリアアップと産休
篠原 : 育休後は店所勤務をして、ある程度子どもが大きくなった後に施工管理に復帰した場合、作業所勤務を離れることによるブランクを埋めるのはやはり難しいことですか ?
富士本 : 年齢とか経験によると思います。仮に作業所経験が10年~15年あれば、育休期間を含めた2~3年を内勤として働いた後、作業所に戻る形であれば、やれる仕事はたくさんあり復職しやすいでしょう。でも2~3年の作業所経験で産休し、2~3年内勤として働いた後での作業所復帰は大変かもしれませんね。
篠原 : そうですね。産休・育休を取ると最低でも1年間は作業所を離れる必要があり、取らない人との経験の差が出てしまうので、いろんなことを早く吸収する必要があるなと、私自身も感じています。
早く一人前になりたい !!
篠原 : 女性だからなのかもしれませんが、会社の中で 「最終的には作業所長になりたいですか ?」 とよく聞かれるのですが、どう思いますか。
富士本 : 聞かれる、聞かれる(笑)。私も新入社員の時はよく聞かれていました。当時は曖昧な返事をしていましたが、今では女性でも普通に所長を目指す時代になってきたと思います。
飯野 : 所長って今のところ何するか分かんないよね ? でも所長っていう仕事は楽しいよ !
富士本 : これくらいの作業所の規模になると、中小企業の社長ですよね。
飯野 : 作業所には多くの社員と作業員がいて、所長としてその人たちを組織し、建物を作り上げるということはやりがいのある仕事だと思う。篠原さんはどう思いますか ?
篠原 : やりがいのある仕事ですが、所長になるというところまではまだイメージできていません。今のところ早く仕事ができるようになりたいですね。
お忙しいにもかかわらず、快く取材を引き受けてくださった4名の女性技術者の皆さん、ご協力いただいた加盟組合・作業所の皆さんに感謝申し上げます。
このインタビューを通じ、今まで気づくことができなかった、いろいろな思いや心配事を知ることができたのではないでしょうか。2つの 「ロールモデル」 が若手女性技術者の方に参考になれば幸いです。
日建協では、今回のインタビューで伺った話を 「女性活躍の推進」 「ダイバーシティの推進」 「時短施策」 に関する政策提言などに活かし、誰もが働きやすい職場環境の実現にむけた活動を行っていきます。