メンタルヘルスに取り組む

目次
メンタルヘルスは他人ごと? メンタルヘルスへの取り組み
「心の病」とその対応 会社と労働組合の対応
 (1)うつ病と性格  (1)会社全体を巻き込むことの重要性
 (2)長時間勤務がうつ病を招く  (2)安全衛生委員会も利用しよう
 (3)うつ病のサイン  (3)電機連合のハートフルセンター
 (4)うつ病患者への接し方  (4)過労自殺裁判の教訓
 (5)心の元気を作る10ヶ条 メンタルヘルスは特別なことじゃない

●関連ページ
メンタルヘルスに注目だ! つらい心を認めてあげよう
   

メンタルヘルスは他人ごと?

昨今、うつ病・躁病などのいわゆる「心の病」や、30歳以上65歳末満の壮年期に見られる「急な病死」が増加しています。また、自殺は3年連続して3万人を超え、交通事故による死者を上回っています。

この原因の一つには、社会・職場・家庭環境からくるさまざまなストレスがあると言われていますが、私たちの職場には毎日くり返される長時間の残業、休日出勤、過大なノルマなど、ストレスの要因となる事柄が山積しており、いつ発症・発生してもおかしくない状況にある人が多数存在しています。

自分の忙しさ、あるいは企業の経営状況を考えたとき、メンタルヘルスに取り組む余裕はないと考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、そうした方ほど企業を説得し、組織全体でメンタルヘルスに取り組む必要があると言えます。
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「心の病」とその対応
「心の病」と呼ばれる代表的なものには、うつ病・躁病・パニック障害・アルコール依存症・心身症などがあり、精神障害者の平成11年推計は204万人となっています。この中で最も一般的な精神疾患であるうつ病について、ここではその症状などについて簡単に説明します。

うつ病は一生のうちのある時期に一度はかかる病気で、その確率は男性で5~12%、女性で10~25%と言われています。気分が落ち込んで何もしたくなくなるのが特徴で、遺伝的な要素で起きる「内因性うつ病」と、さまざまなストレスに反応して起こる「反応性うつ病」に分けられます。

表1 うつ病の症状



① 抑うつ気分(気分が落ち込む、罪業妄想、貧困妄想、心気妄想など)
② 思考制止(ブレーキがかかったように考えが進まない)
③ 意欲の低下(何に対しても興味が持てなくなる)
④ 漠然とした不安・悲哀感・焦燥感
⑤ 集中力・注意力の低下(記憶力の低下を伴う)
⑥ 自責感(何事にも自分を責める)
⑦ 自殺念慮(自殺したくなる)



自律神経症状
① 不 眠
  (寝つけない、途中で目が覚める、朝早く目が覚める、夢ばかり見てぐっすり眠れない)
② 消化器症状(食欲の低下、食べたくないけど無理して食べる、体重減少、便通異常、
  ガス症状、吐き気、嘔吐、喉・食道が詰まった感じ、腹痛、胃部不快感、口内違和感、
  味覚異常、胸焼け、げっぷ、腹部膨満感)
③ 倦怠感(だるい、疲れやすい、各種疼痛、胸部・腹部・背部痛、四肢の痛み、筋肉痛、
  腰痛、冷え)
④ 頭痛、動悸、めまい感、便秘、インポテンツ、性欲減少、口渇、発汗、耳鳴り、目がかす
  むなどの症状
⑤ 呼吸器系(過呼吸症候群、ため息、呼吸困難、圧迫感、腹部苦悶感)
⑥ 循環器系(心悸亢進、胸部不快感、頻脈、胸部圧迫感、狭心症様発作)
⑦ 泌尿器系(頻尿、残尿感、下腹部不快感)
鈴木安名 『職場のメンタルヘルスがとことんわかる本』
渡辺昌祐 『うつ病と神経症』
(1)うつ病と性格
ストレス状態になりやすい人

うつ病を発症しやすい性格は「メランコリー親和性」と言われ、次のような傾向の強い人です。

①周りへの心配りがあり、飲み会などでは場を盛り上
  げる明るい性格
②几帳面で仕事熱心、向上心に富む
③正義感にあふれルールや約束を守る
④スポーツによって鍛えられた根性の持ち主

つまり、誰から見ても好ましい性格といえます。

まじめ、几帳面、仕事を他人任せにできない、いつも何にでも全力投球(融通が利かない性格)
職人気質(能力の範囲内ではきちっと仕事をする)
否定的な世界観
二者択一的思考(完全な成功か完全な失敗か、100点か0点か、白か黒か)
変化に弱い(他人との調和を重んずるあまりに自分を殺す、他人の評価に敏感)

(2)長時間勤務がうつ病を招く

限界を超えた長時間勤務は、それ自体がうつ病を引き起します。医学的な細かい仕組みは解明されていませんが、厚生労働省通達でも指摘しているように、因果関係はある程度認められています。

(3)うつ病のサイン

精神科の先生の話では、「重いうつ病の初期症状が、軽い風邪のような症状だったこともある。」ということです。また、神経性胃炎の60%がうつ病という発表もあるほどです。

風邪のような症状を例に取った場合、心身の疲労やストレスが風邪のような症状となって現れ、会社を二~三日休みます。次に、仕事に穴をあけてしまったことへの不安感や、そのことへの上司の叱責やまわりの人の視線が気になり、会社に行きたくなくなる。そして、連続した欠勤を伴ったうつ病につながるといった具合です。

こうした状況を防ぐには、心身の疲労やストレスからくるサインを早く見つけ、適切な対応をとることが重要となります。要注意のサインとして、まわりの人が気づくものには、「ミスが増えてきた」「アルコールの量が増え言動が変わる」「欠勤、遅刻、早退が目立つ」「イライラ、セカセカ落ち着きがない」「ぼんやりしている」「服装がだらしなくなった」などがあります。

また、本人の自覚症状としては、食欲低下、不眠、だるさがポイントとの見解もあります。しかし、専門家でないものが簡単に判断することは難しく、誤ったアドバイスは症状を悪化させることもあるので危険です。社内外でメンタルヘルスセミナ―などを受講し、ケアに対する基礎的な知識を習得するとともに、プライバシーが保護され、気軽に専門家に相談できる環境と支援体制を整えることが大切です。

(4)うつ病患者への接し方

うつ病と思われる人への接し方は意外に難しいものです。良かれと思ってしたことが逆効果になる場合もありますので、次のようなことに気をつけてください。

励ましは厳禁!(これ以上がんばるパワーがなく、逆にうつ病を悪化させる)
思い切った休養・休業を(ストレスからの開放)
良くなることを知らせる(うつ病は坑うつ剤によって治る)
家族のサポート・協力
職場復帰のポイントは「時間」(戻り方は専門家と相談)
自殺予防
1)自殺の予告「会社を辞めたい」(文字通りではない。これまでの人生にも終
  止符)
2)弱音(普段弱音をはかない人ほど要注意)
3)食欲不振、痩せ、不眠(体重の急減はガンよりうつ病を疑う)
4)狂言自殺(自殺の企てに他ならない)

(5)心の元気をつくる10ヶ条

うつ病にならないためには、自分でストレスをコントロールできればいいわけですが、実際にどうやればよいのか思いつかないのではないでしょうか。
そこで、医学博士、小田晋先生の心の元気をつくる10ヶ条を挙げてみたいと思います。できることがあれば試してみて下さい。

心の元気をつくる10ヶ条 解 説
イヨイヨマスマスコレカラダンダン 楽天的のすすめ
なんとかなるを忘れるな 駝鳥症候群に陥るな (注1参照)
笑いとユーモアも訓練で 笑いは心の内側からのジョギング
「ちょっとタイム」に瞑想を 瞑想を楽しみ、意識の切り替えを
瞑想(禅・ヨガ)でストレス退治 ストレス・コントロール法を身につけよう
スポーツ下手こそよけれ ムキにならず、マイペースで楽しもう
魚になって健康になろう スポーツのなかでも水泳は効果的
男もすなるサラダ日記 趣味の効用、適正飲酒
膝とも談合元気のもと いろいろな場所に話し相手を
弱さを認める勇気をもとう 専門家はあなたの健康のサポーター
注1:駝鳥症候群(オーストリッチ・シンドローム)とは?
不利な事実が起きたら対策はない(どうしようもない)と思ってしまうこと。敵に追い詰められた駝鳥(ダチョウ)が首だけを砂中に埋めて、現実を見まいとすることからこうよばれる。



メンタルヘルスへの取り組み

図1 相談体制の事例


(労務行政研究所 労政時報第3536号から)
注)EAP(Employee Assistance Proguram)
企業に勤める方々の心の健康を守り、その企業全体の活性化を図るための、専門援助システムで、米国ではフォーチュン誌に掲載された企業500社の95%がEAPを導入しています。
旧労働省は、平成12年6月の「労働者のメンタルヘルスに関する検討会」報告を踏まえ、「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を平成12年8月に策定・発表しています。その内容は、事業者が基本的事項を定めた「心の健康づくり計画」を策定し、

  ① 労働者自身による「セルフケア」
  ② 管理監督者による「ラインによるケア」
  ③ 事業場内の健康管理担当者による「事業場内産業
    保健スタッフ等によるケア」
  ④ 事業場外の専門家による「事業場外資源による
    ケア」


を推進するため、管理監督者や労働者に対して教育研修を行うこと、職場環境等の改善を図ること、労働者が自主的な相談を行いやすい体制を整えることとなっています。
具体的には、事業外資源も活用しながら社内外にその体制を敷く必要があります。(図1参照)また、総合的なメンタルヘルスケアに取り組むためには、各担当者がその役割に応じた取り組みを確実に行う必要があります。(表2参照)

表2 メンタルヘルスケアの4分類と各担当者の役割
分 類 労働者 管  理
監督者
業場内産業保健
スタッフ等
事業場外資源 事業者 行 政
①セルフケア ・ストレスへ
 の気づき

・ストレスへ
 の対処

・自発的な
 相談
・セルフケ
 アへの
 支援
・セルフケアへの専
 門的な支援
・労働者への情報提
 供等

・情報提供・広報
・教育研修の開催
・個別の相談・診
 療
・心の健康づく
 り計画の策定

・関係者への事
 業場の方針
 の明示および
 必要な指示

・労働者の相談
 に応じる体制
 の整備

・事業場外資源
 とネットワーク
 の形成
・普及啓
 発活動


・必要な
 人材育
 成に対
 する
 支援
②ラインによる
  ケア
  ・職場環
 境等の
 改善

・個別の
 相談・
 対応
・ラインによるケアへ
 の専門的支援
・管理監督者への教
 育研修の実施
・情報提供・広報
・教育研修の開催
・講師の養成・派
 遣
③事業所内産
  業保健スタッ
  フ等による
  ケア
    ・職場環境等の改善
・個別の相談対応お
 よび事業場外資源
 の紹介等
・情報提供・広報
・教育研修の開催
・講師の養成・派
 遣
④事業場外資
  源によるケア
      ・直接サービスの
 提供
・支援サービスの
 提供
・ネットワークへの
 参加
(労務行政研究所 労政時報第3536号から)

仕事と休養のバランスを
前述の指針では、労働者による自発的な相談への対応が求められていますが、往々にしてこのような対象者は自覚が無く、相談を不必要と考えることが多いという問題があります。また仮に自覚があったとしても、指針ではプライバシーに留意することも明記をしてはいますが、自分の処遇を考えて上司などには相談を持ちかけにくいことも対応を難しくしています。

この点においては、ストレスに関する調査(例:JMI健康調査)で対象者を早期発見したり、電話で気軽に相談サービスを受けたりという方法があり、これを事業外資源の活用と言います。このような事業場外資源の活用では、対象者プライバシーが守られているため、早期発見と早期のケアが可能となります。

いずれにしても、実際に実施する場合はかなりのコストがかかりますので、労働組合などを通じて会社に対して支援を求めるなどの検討をお願いします。



会社と労働組合の対応
(1)会社全体を巻き込んだ取り組みの重要性

長い労働時間をどうするか・・・
事業場外資源があれば事業場内機関が不必要かと考えがちですが、双方とも必要というのが結論と言えます。

例えば、専門医(事業場外資源)の治療を受けていてある程度症状が治まってきた場合、早期の職場復帰を考えがちですが、このとき企業内のメンタルヘルスケア担当部署(事業場内機関)がその受け入れに関して十分な検討を行い、配属先への配慮の依頼、試用や本格的な職場復帰のスケジュールなどを策定し、段階的に復帰できるように対応しないと再発の可能性がかなり高くなります。

事業場内外でネットワークを構成し、一般的な対応を外部に任せ、職場独自の問題は事業場内機関に任せることによって職場復帰サポート体制を築くことが必要です。

図2 メンタルヘルスケアの施策展開フローの事例

(2)安全衛生委員会も利用しよう

水辺でリフレッシュ
建設産業において「安全」に目を奪われがちな労働安全衛生法では、快適な職場環境を形成するために必要な措置を講ずることが求められています。メンタルヘルスも例外ではなく、この中で取り上げることが可能で、労使による安全衛生委員会も利用して会社に意見を述べていくことができます。

なお旧労働省のメンタルヘルス指針のベースとなったメンタルヘルス検討会報告書でも、労働組合の役割について以下のように述べています。

「労働組合は、衛生委員会等において、心の健康づくり計画の策定、その実施、評価に参画する。また、組合員等を対象とする健康実態調査、相談活動及び教育研修、職場パトロール、産業別組合等を通した事業場外の相談先の紹介等を自ら企画したり外部の活動に参加して行う例もあるなど、事業場の心の健康づくりのための環境の改善に寄与する。」

(3)電機連合のハートフルセンター

猫はのんびり上手
電機連合では「ハートフルセンター」という名称で、産別の健康相談窓口を設置しています。産別としての規模が異なるために、日建協が同様の機関を設置することは人的・経済的資源不足で難しいのですが、労働金庫などでは健康問題に関する電話相談窓口を提供しているところもあります。

電機連合ハートフルセンターで課題となっていることは、勤務上の相談ばかりではなく家庭問題に関することが少なくない点です。こういったことからも、事業場内資源だけでは対処の難しいことが明らかと言えます。

(4)過労自殺裁判の教訓

広告代理店の労働者が、長時間労働による過労でうつ病になって自殺した、いわゆる電通過労自殺事件(1991年8月、2000年6月和解)での最高裁判決は、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損うことがないように注意する義務を負う」としています。

緑の道をドライブするのもいい
「判例タイムズ」(2000年7月1日号)は、この点について「重要なポイントは『業務の量等を適切に調整するための措置をとる』ことである」と指摘しています。そのための方法として、
     ①割り当てる業務量を減らす
     ②業務を処理する期間に余裕を与える
     ③当該業務の担当者の増員を行う
などの措置をあげています。

「判例タイムズ」にこの解説を書いたのは、現役裁判官か当該事件を担当した調査官だと言われていますが、注目すべきは業務量調整という注意義務が「いわゆる裁量労働にあっても、基本的に妥当する」としている点です。

業務量を調整する目的は労働時間の短縮に他なりません。長時間労働が誰のためにもならないことは、さまざまなところで述べられています。メンタルヘルスを進める上で、労働組合が取り組むべき課題の最重要ポイントは時短活動と言えます。



さいごに――メンタルへルスは特別なことじゃない

メンタル・ヘルスケアで最大の問題は、過労自殺です。家族・会社・職場など周囲に与える影響はたいへん大きく、損失は計り知れません。関係者から自殺者を出さないように、自殺に追い込まないように、私たちはメンタルヘルスを無視することはできません。そのためにも精神科医に気兼ねなくかかれる雰囲気や対象者を孤立させないなど、明るく、見通しの良い職場を築き上げなければなりません。

空を見上げてみよう・・・
自分の好きな方法で
ストレスを緩和させたい。
心の健康に関するキーワードを並べてみると、「自分の役割を充分に果たせている」「自分を知っている」「人と共感できる」「人と仲良くできる」「自分の持ち味を充分に生かす」「ストレスに対する個人の心構え」「早めに医療機関に相談する」「身体をいたわる」「仕事を好きになる工夫」「自分の隠された能力を信じること」「仕事とは性質の異なる趣味を持つこと」「社会的孤立を避ける」「いろいろなストレス解消技法を学ぶ」などがあげられています。

これらは組合の基本とも言える働きやすい職場を築き上げることで解決される事柄も多く、メンタルヘルスは決して特別なことをするのではなく、組合活動の延長線上にあるものと言えるのではないでしょうか。■


※日建協ホームページの他のページでもメンタルヘルスが取り上げられています。
メンタルヘルスに注目だ! つらい心を認めてあげよう』は精神科と心労内科の違いなど
心の病の詳細について知ることができます。ぜひご覧ください。


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