― 契約内容の明確化と片務的体質の改善にむけて ―
2004年6月

はじめに
第1章 不明確な契約内容の改善(原因1)
 1.工事計画・設計・積算に起因する契約外業務の責任区分
 2.工事の施工段階に発生する設計変更業務における責任区分
 3.工事の施工段階に発生する工事運営上の業務における責任区分
 4.工事の施工段階に発生する発注者都合による業務の責任区分
 5.工事の引渡し後に発生する瑕疵以外の業務における責任区分
第2章 商習慣的な片務的体質の改善(原因2)
 その他 受発注者の片務的意識解消のための制度、環境の整備・活用
第3章 作業所で働く組合員が無報酬業務と感じている業務

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はじめに

 現在、公共工事のあり方が大きな転換期をむかえています。バブル崩壊後、国の財政が厳しくなったこと、また、公共工事を取り巻く談合の問題やダンピングの問題を背景に、国土交通省は、さまざまな施策を講じています。その大きな流れのなかには、国民からの公共工事に対する公正性・透明性を確保するための施策が盛り込まれています。公共工事に対する考え方が、これまでの産業内の生産行為中心の視点から、エンドユーザーとなる国民への視点へと大きく変化しています。

 日建協では、建設産業で働く者の広義な意味での労働条件の向上にむけ活動しています。労働時間や賃金についてだけではなく、建設産業で働く私たちが、自信と誇り、やりがいをもって働くことができる環境作りにむけ活動してきました。2000年に、提言「公共事業と建設産業の信頼を回復するために」を作成し、社会に対する公正・透明な公共工事のあり方について提言をしてきました。そのようななか、国土交通省が、公共工事の公正性・透明性確保にむけ施策を講じていることについては大きく賛同するところです。このような動きが、国民の公共工事に対する誤った意識を払拭し、ひいては、建設産業の信頼の回復につながればよいと考えます。しかし、そのような国民に対する施策が進められるなか、公共工事に直接携わる受発注者双方で取り交わされる請負契約においては、依然として不透明な実態が存在しています。それが、無報酬業務(対価を伴わない契約外業務)です。

 無報酬業務は、私たち建設産業で働く者が恒常的に抱える長時間労働の問題にも大きな影響を与えています。また、無報酬業務の原因ともなっている受発注者間における片務的な体質も大きな問題です。私たちは、本来、ともに社会資本を築いていくはずの、パートナーである発注者との関係が片務的となり、理不尽な要求を強いられていることについて憤りを感じずにはいられません。私たちは、社会に貢献しているという自負を持ち、そして、自分たちの力を社会に対し、大いに発揮していきたいと考えています。その力を十分に発揮するためにはパートナーとの良質な関係が不可欠です。また、片務的体質に見られるような曖昧な体質が社会からの批判に繋がってしまったり、私たちの労働条件である労働時間や賃金にまで影響を及ぼしてしまうとすれば、仕事に対する誇りややりがいはおろか、産業に対する魅力まで減退してしまいます。このような、働く者の思いは、日建協が毎年11月に、1万人を対象に実施しているアンケートにも表れています。図1は、2003年11月に実施したアンケートの「建設産業に魅力を感じない理由」について、その結果を示したグラフです。上位3項目以下の次のグループでは、無報酬業務がもたらす働く者の切実な声が表れています。

図1 建設産業に魅力を感じない理由

 今回、日建協では、私たちの労働条件に大きく影響を及ぼしている、受発注者間における無報酬業務の改善にむけ取り組みます。本提言書は、日常、作業所において行われている無報酬業務について、加盟組合員から寄せられたアンケートの意見をもとに作成しました。
 
 無報酬業務の発生する原因は、大きく2つに分類されると考えます。まず、ひとつが第1章で取り上げている受発注者間で取り交わされる不明確な契約内容を原因とするものです。ここでは、これまで不明確であった契約内容を明確に示すことにより、曖昧な請負契約の現状を払拭するよう提言しています。また、契約外の業務が発生した場合の対応として、請負契約における根幹の規定である「公共工事標準請負契約約款」の遵守を訴えています。さらに、約款に明確に示されていない契約外の業務については、受発注者双方の業務における責任区分を明確にするとともに、受発注者どちらの側が業務を行うべきであるのかを示しました。第2章では、もうひとつの原因である受発注者の意識上の問題として、商習慣的に定着してしまっている片務的意識の改善について示しました。


 私たちは、産業の現状、今の姿がこのままで良いとは決して思っていません。無報酬業務は、受発注者の関係、ひいては私たちと協力会社の関係も含め、建設産業全体のコスト構造を不透明にしている大きな原因です。提言のなかには、私たち受注者側、そして私たちの顧客である発注者側にも厳しい内容が含まれています。しかし、私たち自らが産業の将来のことを真剣に考え、そして、建設産業の魅力化に向け、受発注者双方が、その改善に取り組んでいくことが今こそ重要なのだと考えます。
 関係機関のみなさまにおかれましては、本提言書の内容をご理解いただき、建設産業の健全な発展に向けて、ともに取り組んでいただくことを切に希望します。
2004年6月
日本建設産業職員労働組合協議会

 
第1章 不明確な契約内容の改善(原因1)  

 無報酬業務は、受発注者で取り交わされる請負契約の契約図書において、その内容が明確に示されていないことが一つの原因となり発生していると考えられます。
 無報酬業務の発生を改善するためには、まず、契約図書の内容に不備がないよう、きちんと内容を明示することが必要です。項目、数量、仕様に至るまで設計図書に不備なく記載されていなければいけません。

まず、無報酬業務を無くすためには、契約の根幹である設計図書の曖昧さを払拭することが第一であり、契約にない業務を事前に無くすことが必要です。

 次に、建設工事という事業の特性上、契約にない業務が発生した場合には、まず、「公共工事標準請負契約約款」に則り、その責任区分を明確にすることが必要です。「公共工事標準請負契約約款」は、請負契約の片務性の是正と契約関係の明確化、適正化のため、中央建設業審議会(中建審)が公平な立場から請負契約の当事者間の具体的な権利義務関係の内容を律するものとして決定したものです。約款は、各省庁などの国の全ての機関、都道府県、政令指定都市、独立行政法人等の政府関係機関、および、電力会社、ガス会社、JR各社、NTT等の民間企業に対して中建審から、また、地方公社、市町村等には都道府県を通じて勧告されている請負契約の根幹をなす規定です。約款のなかには、無報酬業務の要因となっている工事の設計変更や条件変更、また、工事用地の確保等について、受発注者に対する規定が示されています。

受発注者間の請負契約については、「公共工事標準請負契約約款」の内容を再確認し、受発注者双方が遵守していくことが大切です。さらに、その他に発生する無報酬業務については、契約外に生じた業務内容が、受発注者どちらの責任範囲なのかを明確にし、その責任範囲に則り業務を遂行してく必要があります。

 次の図は、アンケートにより組合員が実際に直面している無報酬業務について、その発生状況から5つのカテゴリーに分類し、それぞれの責任区分を検証し、示したものです。


1.工事計画・設計・積算に起因する契約外業務の責任区分
(作業所からの声)
・設計図面と現地の整合性がとれず、設計変更が多く、図面の修正を依頼される。
・設計図面、工事数量の不具合が多いため、設計変更が発生するが変更に伴う費用が認められない。
・設計図面における設計ミスが多く、全て図面の手直しをさせられる。
・着工したにも関わらず、地域住民との協議が整っていないため、工事に着手できない。

 上記の内容は、すべて工事計画・設計・積算の不備に起因する無報酬業務です。入札・契約及び工事を施工するにあたり、設計図書はその根幹となります。設計図書の不備は、請負金額への影響ばかりでなく、工法や工程をも左右するものです。発注者は、工事の入札前に、設計者との十分な打ち合わせを行い、その内容を確認しなければなりません。

 契約後の変更は、発注者が、入札前に十分な現地調査とチェック作業を行うことによって、事前に防ぐことが可能です。また、用地買収や近隣住民との調整の不備は、工事の着手に大きな影響を及ぼします。契約後において、これらの問題が発生した場合、工事の着手が遅れ、全体工期に影響を及ぼすばかりでなく、作業所の維持費や人件費などのコストが発生します。施工全体に影響するこれらの問題については、契約前の段階で全てクリアにしておくべきです。
 発注者は、工事計画・設計・積算について、工事を発注する側の責任として、設計者まかせにするのではなく、自らが十分な検討、確認を行わなければなりません。

−責任の区分−
 公共工事標準請負約款第18条(条件変更等)では、設計図書と工事現場の状態とが異なる場合、設計図書の表示が不明確な場合、設計図書に示されている施工条件が実際と一致しない場合、工事の施工条件について予期し得ない特別の状態が生じた場合等においては、請負者はその旨を発注者に通知し、通知を受けた発注者は調査を行い、必要があるときは、設計図書を変更または訂正し、工期または請負代金額に変更等を行うべきと規定しています。

計画・設計・積算段階の不備による設計変更などの業務は、明らかに発注者・設計者側の責任であり、当然、発注者側で対応する必要があります。よって、変更にともなう設計図書の修正業務は、発注者が責任を持って行うべきです。また、設計変更によって生じる金額の増減は、別途変更契約を結び、工事金額に適正に反映させなければなりません。

 公共工事標準請負約款第16条(工事用地の確保等)では、発注者は、請負者が工事の施工上必要とする日までに工事用地等を確保しなければならないと規定しています。また、第20条(発注者が工事を中止させた場合)では、工事用地等の未確保等により発注者が工事の全部または一部の中止を命じなければならなくなった場合には、請負者に対し、工期、請負代金額の変更、必要な費用の負担を行わなければならないとしています。

着工前に発生する地域住民との問題は、入札を行う前に解決しておくべきです。着工後に問題が発生した場合には、工事着工不能に関わる経費や人件費などのコストについては、受注者と別途契約を交わし、適正な金額が支払わらなければなりません。

 また、受注者が行う設計照査業務については、仕様書のなかにその実施について明示されています。発注者側の確認不足で、内容の不備が多いものには問題がありますが、設計図面に従い施工を行う技術者として、事前に設計図書を確認することは、義務であり当然のことと考えます。また、発注者は、設計照査業務を利用し、設計・計画と混同するような過度な検討業務を依頼するべきではありません。

2.工事の施工段階に発生する設計変更業務における責任区分
(作業所からの声)
・設計変更にともなう費用が認められない。
・設計変更にともなう、工法検討や設計図面の作成、構造計算などを無償で依頼される。
・埋設管理者との協議のための、資料や図面の作成を依頼される。
・関係機関との協議・調整不足で、作業の手戻りがあり、その費用が無償となっている。

 工事の施工は、自然を相手にさまざまの構造物を構築していくという業務上の特性を持っています。よって、実際の施工にあたっては、工法の変更や使用材料の変更などが発生する場合があります。このような施工上で発生する設計変更においても、さまざまな無報酬業務が発生しています。

 もちろん、発注者として、設計図面と現地との不整合や設計図面・工事数量の不具合などは、入札前に確認し、設計変更が生じないようにしなければなりません。しかし、工事の特性上、設計変更が生じる場合には、現状に合致した工法などの検討を行い、早急に対応しなければなりません。現状では、このような検討業務や図面の作成、構造計算などは、受注者が行っている場合が多く、また、その業務に対する適正な対価が支払われていない場合があります。これらは、発注者側が、設計変更にともなう十分な技術を有しておらず、結果的に、受注者側に協力を依頼せざるをえないことなども一つの要因と考えられます。受発注者の責任を明確にし、無報酬業務の発生を未然に防ぐとともに、設計変更時においては、発注者側の遅滞なき対応を望みます。

−責任の区分−
 公共工事標準請負約款第19条(設計図書の変更)では、発注者は、工事目的物の目的、構造、仕様等を十分検討した後に設計を行い、請負契約を締結するべきでありますが、工事の施工途中においてその意思・判断を変更せざるを得ない事態が生じた場合には、自らの意思で設計図書を変更し、設計図書の変更内容を書面をもって請負者に通知しなければならないとしています。
 
契約の根幹・工事の基本となる設計図書の変更は、それを監理している発注者側が修正するべきです。発注者は責任の区分を再度認識し、設計変更にともなう検討から図面の作成に至るまでの業務を、安易に受注者に依頼してはいけません。仮に、設計変更に関わる業務を受注者側に委託する場合は、人件費などのコストが発生するため、別途契約し、業務に対する対価を適正に支払わなければなりません。

3.工事の施工段階に発生する工事運営上の業務における責任区分
(作業所からの声)
・沿道住民への工事説明会や日常における住民との調整・打ち合わせを依頼される。
・隣接した他工区・他業者との調整業務の協力を依頼される。
・工事を施工するにあたっての作業所及び周辺地域の調査業務を依頼される。
・施工区域の道路を確保するための除雪作業については、コストに反映されない。
・作業所周辺の照明設備の設置や道路の清掃作業を依頼される。

 施工条件・環境にもよりますが、上記のような業務は、工事の施工を行ううえで、ほとんどの作業所で発生しうる内容です。しかし、これらの業務は、契約数量として明確に示すことが難しく契約内容に反映されていません。また、反映されていたとしても、他の項目のなかに含まれていたり、工事量の割合で一律に計上されるなど、その内容が明確にされていないのが現状です。これらの業務は、施工管理業務において、大きな割合を占めており、人件費などの経費も発生します。受注者にとって、そのような業務の対価が支払われず、無報酬業務となっていることは、大きな負担となっています。

−責任の区分−
工事施工上発生する業務は、工事を円滑に進める役割を担う受注者側の責任と考えます。契約後の第三者も含めた外部との調整や施工における細部の調整業務は、常に工事に接している受注者として、重要な施工管理業務の一つです。

 しかし、現状では、それらの業務に接する割合が大きいにもかかわらず、契約上は、人件費および打ち合わせなどに使用する書類などに対して、その対価が正当に支払われていません。このような業務の内容は、施工条件を適正に判断することにより、その発生の有無が事前に予想できるものです。
 発注者は、積算段階から、内容を項目として反映させておくとともに、その内容について、客観的な数量的判断ができるように明示しておく必要があります。また、契約後に別途発生する業務については、人件費、書類や図面などの成果物の増減について、適正な契約を締結する必要があります。

4.工事の施工段階に発生する発注者都合による業務の責任区分
(作業所からの声)
・地元からの要望による小さな工事を無償で依頼される。
・会計検査に対する提出項目以外の書類や資料の作成を依頼される。
・発注者内部の報告書や資料の作成を依頼される。
・隣接工事の測量業務や図面作成を依頼される。
・設計変更や問題が発生した際の対応が遅く、指示が出るまでの時間がかかるため、工事が進まず経費ばかりかかってしまう。

 以上のような内容については、受注者側の責任はありません。しかし、現状は、受発注者間の片務的体質から、不条理ともいえる発注者側からの要求により無報酬業務として行われています。このような無報酬業務は、発注者側で対応するべき内容です。発注者は、受注者に対し、契約における対等性を考慮し、片務的かつ一方的な要求をしてはいけません。

−責任の区分−
片務的な体質が引き起こす直接工事に関係しない業務や明らかに発注者側の責任である業務は、発注者が責任をもって行わなければなりません。

5.工事の引渡し後に発生する瑕疵以外の業務における責任区分
(作業所からの声)
・発注者から施設管理者への引渡しの際、対象物件の清掃を行わされる。
・工事引渡し後、仕様の変更に伴い、構造物を新仕様に無償で作り直しさせられる。
・工事引渡し後、発注者の会計検査に関する必要書類の作成を行わされる。
・竣工検査を終え、引渡しを完了した後、他工区による配筋の問題を要因として、確認のため鉄筋の超音波による全数検査を行わさせられる。

 無報酬業務のなかには、竣工検査が完了し、工事引渡しが終わった後の段階で発生する上記のような内容のものもあります。このような、引渡し後に発生している無報酬業務は、受注者側の担当者がすでに別の業務に携わっていたり、工事に関する予算の清算が終了しているなどのため、その実施は非常に困難をともないます。発注者は、受注者側の施工責任による瑕疵と瑕疵とは異なるこの種の業務とを混同してはいけません。

−責任の区分−
 公共工事標準請負約款第44条(瑕疵)では、工事目的物に瑕疵がある場合は、発注者は、請負者に対し、修補請求、損害賠償請求を行うことができると規定しています。しかし、上記に示した内容については、請負者側の瑕疵とはその内容が全く異なり、片務的な体質がまねく発注者都合による理不尽な業務といっても過言ではありません。
 
瑕疵以外の、引渡し後に発生する業務は、発注者側の責任であり、受注者に対し、安易に業務の依頼をしてはいけません。


第2章 商習慣的な片務的体質の改善(原因2)  

 無報酬業務を発生させるもうひとつの原因として、受発注者間の意識上の問題である片務性の問題があります。受発注者の片務的な意識・体質は、長年、商習慣的に行われてきており、非常に根深い問題となっています。その原因を検証し、根本的な部分を改善していかなければなりません。

   無報酬業務を引き起こす片務的体質は、受発注者間の健全な関係の構築を阻害しています。作業所で働く私たちは、この片務的な不利な立場のなか、理不尽ともいえる発注者からの要求に対し、疑問を抱きながらもこれまで対応してきました。しかし、私たちが本来望んでいるものは、双方の良質な関係のなか、お互いの持つ力を十分に発揮し合い、社会へ大いに貢献していく体制です。国民のための社会資本の構築というひとつの目的にむかい合うパートナーとして、互いが互いを高め合う良質な関係です。その障害となる片務性が、早期に改善されることを願っています。

 現在、国土交通省では、契約の透明性の確保という観点から、国民への情報開示について具体的な活動を展開しています。公共工事は、エンドユーザーである国民の税金をもとに建設するものであり、国民に対して、公正・透明に、事業を展開していかなければなりません。そして、公共工事に携わる受発注者は、そのルールのもと、国民の総合的利益の視点に立ち事業を進めなければならないという重要な責任を負っています。国民のために、より有益な社会資本を築いていくためには、双方の責任をまっとうし、パートナーとして連帯し、国民に対してより有益な社会資本を造り上げていく体制作りが必要です。

 受発注者の良質な関係構築を阻害している要因は、双方の意識の問題です。その主な原因として考えられることには、以下のようなものがあります。
 
(片務的体質の要因)
−発注者の意識−
  ・施工に関する技術的専門知識が十分でないため受注者側に頼らざるをえない。
  ・監理体制の人員不足により受注者側に頼らざるをえない。
  ・昔からの商習慣
−受注者側の意識−                         
・顧客である発注者との関係を良くし、円滑に工事を進めたい。追加工事を獲得し、受注
 金額を増やしたい。
  ・営業活動として、他の工事を受注したい。
  ・昔からの商習慣

発注者は、受発注者間の請負契約の規定を示した公共工事標準請負契約約款を遵守することを基本とし、発注者という優位的立場を利用した理不尽な要求を行ってはいけません。
受注者側も、自らが契約に対する意識をより高めていくとともに、公共工事標準請負契約約款なども含めた契約図書の内容、規定について問題意識をもって業務に取り組まなければいけません。また、そのうえで、工事の監理監督を行う発注者の立場と工事の発注を行う発注者の立場を混同し、発注者の理不尽な要求に安易に従うのではなく、間違いを是正していくよう毅然とした態度を貫いていくべきです。

 この根本的な意識を互いに変えていかないかぎり、受発注者の片務的な体質はいつまでも払拭できないでしょう。これからの受発注者のあり方は、双方が、ひとつの目標、すなわちより良い社会資本整備の構築にむけ切磋琢磨し、互いをよりレベルの高い位置へ刺激しながら進んでいくことが重要であり、今後の目指すべきあるべき姿であると考えます。

●その他 受発注者の片務的意識解消のための制度、環境の整備・利用●
【入札制度の改善と受注者技術の活用】
 現在の公共工事の入札方式は、一般競争入札・指名競争入札が標準であり、いずれも最低入札金額の入札者に工事が発注されるしくみとなっています。また、最近では、受注者の技術力などを加味し、総合的に落札者を決定する総合評価による入札方式も増えてきています。しかし、現在の総合評価による入札方式は、金額以外の評価部分の比率が低いため、結局のところ金額での判断となっていることが多いという現状があります。これでは、受注者側の技術提案などに対するインセンティブを与える役目を果たしていません。

 金額だけを基準とした入札は、結局のところ受注者側の技術的価値を軽視する結果につながり、受注者本来の価値が活きてきません。金額の部分だけが、受発注者間の接点であれば、双方の意識のなかに、明らかに上下関係が生じ、片務的な体質に陥りやすくなってしまいます。

 発注者は、技術力の優れた受注者にインセンティブをあたえ、受注者の真の価値を引き出すことが重要です。そのためには、受注者を決定する入札の方式を、金額だけの評価ではない、技術力なども加味した総合評価による入札方式への更なる推進が必要と考えます。

   それに対し、受注者は、入札段階、また、施工中においても、常にコストダウンを意識し、VE提案があれば積極的に提案するべきです。施工する側の企業は、技術力の向上に注力し、その技術力をもって、コスト、工期、安全、環境などの面で、社会に貢献していくべきです。そして、受発注者双方は、対等であるという認識を再度確認し、自信をもって社会のために技術を発揮していく必要があります。

【評価制度の改善】
 国民からの税金を使用し、国民が共通して使用する社会資本を計画から監理、維持に至るまで一括して管理しているのは発注者であり、いわば国民の代理です。また、その施工に携わるのが工事の受注者であり、国民に対する双方の責任は重大です。公共工事に対して、受発注者双方は、お互いがより高いレベルでともに取り組み、国民のためにより有益な社会資本を整備していくことが必要です。そのためには、社会資本を国民に提供するパートナーとして対等で良質な関係の構築、維持が不可欠と考えます。

 しかし、現在の受発注者間の関係は、決してそうとはいえません。その原因のひとつに、現在の評価制度があります。現在の受発注者間の評価制度は、発注者側が、受注者側を評価する一方的なシステムとなっています。現在のような一方向からの評価制度では、片務的な意識を払拭することは難しくなります。国民に対する役割を遂行するため、また、お互いが対等で良質な関係を築くためにも、受発注者双方向からの評価制度を導入するとともに、第三者機関などを利用し、その結果を国民に開示していく必要があると考えます。
 
【建設工事紛争審査会の利用】
 現在、建設工事の請負契約をめぐる紛争の簡易・迅速・妥当な解決を図るための公的機関として、建設工事紛争審査会が組織されています。建設工事紛争審査会は、弁護士を中心とし、建設関連の学識経験者や建設行政の経験者で構成され、案件に対する「あっせん」、「調停」、「仲裁」のいずれか手続きに従って問題の解決を行っており、各都道府県に設置されています。受注者は、発注者からの無報酬業務の理不尽な依頼などに対して、まず、双方の間で十分な協議を行い、問題を解決することが必要です。そして、それでも解決できない場合は、公正・中立な立場にある建設工事紛争審査会を有効に利用するべきです。


第3章 作業所で働く組合員が無報酬業務と感じている業務  

●工事計画・設計・積算に起因する無報酬業務●
【中央官庁】
・測量もせず現状と違う古い図面を用いて設計しているため、設計図面の変更や調査のための測量を依頼される(土木)
・発注時の計画が不十分のため、調査、設計、図面作成を全てやり直している。これは現在の業務の約30%を占めている。請負者としては無報酬であっても実施しなければ先に進まない(土木)
・概略での設計で工事を発注しているため、施工前に詳細設計を行っている(土木)
・設計数量としては計上されているが、図面が存在しないため、それら図面の作成業務を行わされる(土木)

【公社・公団】
・設計の不具合による修正設計、図面作成、数量計算等を依頼される(土木)
・設計図書が照査不足なので、ほとんど全ての図面を書き直し、施工を行っている(土木)
・設計時に見落とされた項目の技術検討を依頼された(土木)
・計画図面がないため、ほとんどの図面を作っている(土木)

【都道府県】
・発注者の当然やるべき事柄について「請負者としてチェックしてください」と言われ、事前の設計に対する構造計算及び耐震計算等を依頼されている(土木)
・仮設設計に不備が多く、その見直しと工事費の交渉に多大な労力を要している(土木)
・設計図書に不備が多く、設計の手伝い的な業務が多い。また、その現実を設計、発注者ともに理解していない(建築)

●工事の施工段階に発生する設計変更に起因する無報酬業務●
【中央官庁】
・設計変更に係る図面他、関係図書の作成を行った(土木)
・設計変更の遅れに伴い工事準備期間が短縮された(土木)

【公社・公団】
・本来発注者で行うべき追加設計と、それに伴う安定計算、計画他を依頼された(土木)
・設計図面の作成及び計画(測量を含む)を行い、数量まで計算している(土木)
・設計、積算などに対する補助資料の提出、設計図書の修正業務を行った(建築)

【都道府県】
・設計変更に関する数量計算書作成、施工検討書作成を行った(土木)
・設計変更等の対象になりにくい小さな工種は口頭により指示され、施工したにもかかわらず変更金額がもらえない (土木)
・設計変更業務、数量計算業務などは施工業者まかせとなっている(建築)
・設計変更に対する具体的調整業務、変更図面、資料などの作成を行わされる(建築)

●工事の施工段階に発生する工事運営上の業務における無報酬業務●
【中央官庁】
・近隣対応のためのサービスと思われる工事を無償で行った(土木)
・当社とは別に数件の工事が発注されており、その幹事会社を当社が行っている。各社の残土集計やとりまとめなどを行っている(土木)

【公社・公団】
・工事に関しての近隣住民に対する問題点の解決を全て行うようになっている(土木)
・近隣対応について(防音シート仮設、日常的な散水、大型機械の不使用、作業時間帯の規制など)は全て無償で行っている(土木)
・工事に伴う地元との協議、対応などを行っている(土木)

【都道府県】
・大プロジェクト工事であり、他企業等との連絡調整作業をすべて行っている(土木)
・工程として計上されにくい常用となる仕事は、無償で行わされている(土木)
・設計段階での関係各署との協議、調整(警察・地下埋設管理者他)や支給品の調達業務などを行わされる(土木)
・他業者(電気設備、空調、換気設備)との調整及び安全衛生管理業務を行っている(建築)

●工事の施工段階に発生する発注者都合による無報酬業務●
【中央官庁】
・発注者が組織上部へ説明するための資料作成を依頼される(土木)
・会計検査に対応する為の資料作成を依頼される(土木)
・発注者が現場を理解していない(現場に来ない)ために発注者に現場の状況を説明する書類の作成を行っている(土木)
・設計を決定するための役所内部間の説明用資料作りが多く、すべて作成している(土木)
・設計図書の不具合に対して、理由書の作成、図面の修正を行っている(建築)
・内覧会、見学会等の準備作業、案内業務等を行っている(建築)

【公社・公団】
・本来発注者が行わなければならない関係官庁との協議折衝を行っている(土木)
・国税局の監査に対する説明用の資料を作らされる(土木)
・発注者側の対応・決断が遅く、手戻りなどが生じ、無駄な書類の作成が多い(土木)
・公団監督員が行うべき議事録の作成を行わされる(建築)
・追加変更の見積や医務課(保健所)への提出書類の作成を行っている(建築)
・施主の希望による設計変更に対する打合せ、図面の作成等を行っている(建築)

【都道府県】
・本来発注者が行うべき発注者所内での工程報告を作成している(土木)
・本来発注者が行うべき業務を代行(関連官庁、埋設管理者の提出書類の作成)している(土木)
・現場外の道路清掃(名目上はイメージアップとされている)を無償で行っている(土木)
・発注者が対応するべき会計検査用の書類を作成している(土木)
・設計図書に詳細まで明示されていない施工箇所について、より高品質なものを要求されるため、材料及び労務費がかかる(土木)
・当工事に全く関係のない技術資料の作成や発注者の個人的資料及び論文等の作成を依頼される(土木)
・外部からの来客、見学等において発注者が説明するための資料を作成している(土木)
・同一発注者による他工事の支援業務を行っている(土木)
・発注者が行うべき受注者に対する指示書を作成している(土木)
・図面のコピー製本や資料の作成を行わされる(建築)
・内覧会への対応を行っている(建築)

●工事の引渡し後に発生する瑕疵以外の無報酬業務●
・発注者から施設管理者への引渡しの際、対象物件の清掃を行わされる(土木)
・工事引渡し後、仕様の変更に伴い、構造物を新仕様に無償で修正させられる(土木)
・工事引渡し後、発注者の会計検査に関する必要書類の作成を行わされる(土木)
・竣工検査を終え、引渡しを完了した後、他工区による配筋の問題を要因として、確認のため鉄筋の超音波による全数検査を行わされる(土木)
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