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バブル経済崩壊後10数年が経過し、都市部における地価下落が続いていることの恩恵や、景気対策の一環としての税制面での優遇策などによって、民間分譲マンション市場は依然として活況を呈しています。このことは、建設産業において、建設投資が1996年度以来7年連続で減少し、産業全体の市場規模が縮小されているなかでも、民間分譲マンションの市場が、重要な位置づけとなっていることを意味しています。
 一方で、日建協が加盟組合員を対象にした労働時間調査によると、建設工事のなかでも民間分譲マンション工事における労働環境が厳しい状況に置かれていることがわかります。例えば、土曜日の出勤率・所定外労働時間を発注者別に比較すると、いずれも民間マンション工事が最も悪い数字となっています(下図参照)。
発注者別の土曜出勤率と所定外労働時間
(2003年11月 日建協時短アンケートより)

 この問題に対し、日建協では2001年度に各方面にむけた提言書『民間発注工事の契約体質改善に向けて』を作成し、今後、これ以上の労働環境の悪化を食い止め、改善していくためには「契約内容、責任区分の明確化」「コストの透明性の確保」「適正な工期の設定」などが必要であることを指摘しました。なかでも「契約内容、責任区分の明確化」については、契約が工事における出発点であることから、今回、この“契約”に関する部分についてさらに深く掘り下げるべく、加盟組合より民間分譲マンション工事経験者が集まり更なる調査・研究を行いました。

 この提言書では、実際に作業所で働く職員の立場から、自らの労働環境を改善していくために、そして、建設産業で働く私たちが、自信と誇り、やりがいをもって働くことができる環境を作るためにも、契約における不明確な部分を明らかにし、ひとつずつ改善していくことの重要性を強く訴えるとともに、具体的な改善策を提言します。
2004年8月
日本建設産業職員労働組合協議会
民間分譲マンション研究部会
 民間分譲マンション工事には、他の建設工事と異なった特徴があります。1つは、その建設物が発注者の販売を目的とする「商品」として扱われていることです。つぎに、工事契約関係にない「商品」の購入者も間接的に発注者のような存在となっていることです。


 上の図で示すように、民間分譲マンション工事においては販売協力や購入者対応に関するさまざまな業務が発生します。これらの業務は、発注者ごとの販売戦略によっての差異はあるものの、民間分譲マンション工事に携わるものにとって他の建設工事には無い特有の業務として大きく存在しています。 →TOP
 前述したマンション特有の業務には、次のような問題があります。
 まずは、工事請負契約における業務範囲の不明確さです。契約図書には、パンフレットの作成協力や棟内モデルルームの設置など、特記事項や付帯条項に示される販売にともなう業務の具体的な表記や数量の明記がなく「・・・請負者はマンション販売に関し、協力すること」、「・・・販売用パンフレットの作成に協力すること」といったような、業務を広い範囲や内容に解釈できる表現としていることが多く、これらの業務の範囲、数量、責任区分などを明確にしないまま工事契約が結ばれていることです。
 つぎに、マンションの販売戦略の遅れによる仕様決定の遅れが計画的な業務の遂行を妨げ、過度な設計変更が行われる場合には、予定外の業務の増大をまねくことです。
 そして、購入者対応の現地見学会や内覧会、アフターサービス工事などは休日の対応を求められることが多いことです。

 これらの民間分譲マンション工事特有の業務に起因する問題が作業所で働く職員の所定外労働時間の増大や休日出勤など労働環境の悪化を引き起こしているのです。 →TOP
民間分譲マンション工事の契約にあたっては、業務内容が特定できる明確な表現とし、具体的な数値化が可能な内容にするべきです。

 契約体質を改善するためには発注者、施工者の双方が対等な関係を築かなければなりません。そのためには、お互いに主張すべきことは主張して、質疑・応答の内容を契約図書に反映させ、不特定かつ、業務量がはっきりしない表現を避けるべきです。


  
販売戦略を早期に確立させ、設計図書に反映させるべきです。


作業所における休日の購入者対応を減らすために、内覧会などの平日実施について購入者の理解を求めるべきです。


アフターサービスの対応は、購入者との直接の契約者である発注者がその窓口となるべきです。

 マンションの商品企画が、流行や市場のニーズに左右されている事実は否めません。完売をめざすために、苛烈な商品開発競争への対応は不可欠ですが、工事の発注は、販売戦略の立案や商品企画が固まる前の段階で行われています。そのため、多くの物件で工事着工後に設計変更や仕様変更が行われています。その結果、変更にともなう施工図の再検討や設備工事との整合作業、製作物の発注遅延などが起こり、限られた工期のなかでの業務は圧迫され、そこで働く職員の労働環境の悪化をまねく原因となっています。
 工事着工後の、過度な設計変更や仕様変更は、円滑な工事の進捗を妨げることになるので、販売と商品企画が一体となり早期に企画内容を固め、『企画→設計→契約→施工』の流れを確立させるべきです。

 施工者が購入者の対応を行う行事には『棟内モデルルームの公開』『施工途中の見学会』『引き渡し前の内覧会』などがあります。とくに『内覧会』の開催は、週末にあてられることが多く、作業所で働く職員にとって休日取得の妨げになっています。購入者の理解を得て平日に開催することを前提とした計画とするべきです。また、『棟内モデルルーム』や『見学会』については、安全確保に必要な仮設工事を行うことにより、発注者の責任範囲において開催するべきであり、契約時点で具体的な内容を明確にするべきです。

 購入者への対応には、引き渡し後のアフターサービスがあり、その内容は多岐にわたっています。また、その責任区分についても、購入者が認識していないことが多々あります。購入者へのアフターサービス対応は、直接の契約者である発注者が窓口であるべきです。そして、有償無償の判断基準についても、十分に説明を行うべきです。


 
民間分譲マンション工事においては、特有の業務を考慮した適正な人員配置を行うべきです。

 分譲マンション工事には、前述したとおり、他の建設工事にはない、販売協力や購入者対応に関する特有の業務が多く存在します。単に、生産性のみを求めた人員配置は、作業所職員の労働環境を悪化させています。建設業の企業経営者においては、これら分譲マンション工事特有の業務を理解したうえで適正な人員配置を行うべきです。そのためには、契約にあたり常に明確な内容、数値化可能な内容・表記を発注者に求めていくべきであり、それらの内容を漏れなく見積書に盛り込み、適正な工事価格での受注をめざすべきです。
 


 私たち民間分譲マンション研究部会は、民間分譲マンション工事に携わる職員の労働環境を悪化させている原因として、不明瞭な内容で契約が行われていることに着目しました。そして、その内容を吟味した結果、改善する必要があると考え、次ページに具体的な改善案を提示します。 →TOP
 
『 私たちのやるべきこと 』


契約内容や責任区分等について十分理解し、発注者や設計者と共通の認識をもつことが必要です。
『自分の労働時間は自分で管理する』という意識を持つことが必要です。

 発注者等からの要望に対しては、契約内容や責任の区分について十分理解をした上で、毅然とした態度で応じ、相互理解の中で業務にあたることが重要です。これにより、不要な無報酬業務は減少し、所定外労働時間の削減につながります。
 労働時間を自分で管理するという意識は、業務に対する取り組み方を変えます。当事者意識を常に持ち、自分の役割を自覚し、労働環境の改善を図るべく努力しつづけることが重要です。

民間分譲マンション工事の契約に関する改善策
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