提 言
民間発注工事の
契約体質改善に向けて



民間マンション建築工事に関する実態調査



はじめに
提   言
 1.契約内容、責任区分の明確化
 2.コストの透明性の確保
 3.適正な工期の設定
 4.行政機関に望むこと
 5.労働組合がなすべきこと

資   料
 1.民間マンション建築工事における一般情勢
 2.民間マンション建築工事に関する実態調査結果
  属 性
  (1)設定工期について
  (2)安値受注について
 3.2001年11月時短アンケート結果
  (1)残業時間について
  (2)土曜閉所について
  (3)配員状況について
  (4)アンケートに寄せられた意見
    
民間マンション建築工事におけるサービス業務について


はじめに


 バブル経済崩壊後10年が経過し、ここ数年、首都圏をはじめとする大都市圏での分譲マンション市場は、都心部における地価下落が続いていることの恩恵や、景気対策の一環としての税制面での優遇策などによって活況を呈しています。国土交通省の建築着工統計によると、2001年の全国での分譲マンション着工数は、222,769戸(分譲住宅でのシェア64.7%と過去最高を記録)と3年連続で増加しています。また、兜s動産経済研究所の全国マンション市場動向によると、2001年の首都圏での販売戸数も、都心部での大規模、高層物件の販売が堅調なことや、販売価格が4年連続で下落していることを背景に89,256戸と過去最高だった2000年の95,635戸に次いで史上2番目となっています。

 しかしその一方で、生産現場である作業所に従事する労働者の労働条件は、悪化の一途を辿っています。中でも労働時間については、所定外で平均87.97時間/月(年間総労働時間で2,925.6時間)と心身共に限界に達し、この状態を放置しておけば悲劇的結果をも招きかねません。さらに深刻なのは、建設産業の将来を担う若手職員が、会社や仕事に対する魅力を感じられず、辞めていく者が跡を絶たなくなっていることです。建設産業では、建設市場の縮小による需要と供給とのアンバランスから生じる熾烈な低価格競争による過度な安値受注や、契約に規定されていない発注者の恣意による無償で行なうサービス業務などといった建設産業が抱える構造的な問題が介在しています。そして、この問題を放置したことによって、建設産業で働く者が大切にしてきた「物を創る」という喜びをも奪ってしまった、と言っても過言ではないでしょう。

 そこで、日本建設産業職員労働組合協議会(日建協)では、昨年12月に受注状況、契約工期の設定に関する正確な実態把握と問題抽出のため、加盟組合の民間マンション建築工事に従事する所長、主任クラスの組合員を対象に調査を実施しました。さらに、毎年11月に組合員を対象に行なっている労働時間に関するアンケートにも、作業所における職員の配属状況やサービス業務に関する設問を加えて問題の整理・分析を行いました。

 その結果は、実に有効回答現場の約9割が採算を度外視した低価格での受注、いわゆる赤字工事でした。また、工期設定についても、1997年に週40時間労働制の完全実施にともない週休2日制が世間の常識になったのにもかかわらず、現在の契約工期では土曜閉所はおろか日曜日も作業しないと間に合わない状態です。その背景に、取引上の優越的地位の濫用ともいえる不公正な契約を指摘する声が多いことから、この様な事態を招いた真相として請負契約に関する問題が露呈してきました。

 請負契約自体については、問題のある特殊な契約制度だとは考えていません。問題なのは、受注競争が激化したことによって契約内容の細部について、責任区分、経費を含めた業務や報酬などにおいて不明瞭な部分を放置し、明確に取り決めが為されていないこと、そして、その結果として『請負契約』=『請け負け』という構図が実態として定着し、その意識を払拭できなくなったことです。この呪縛から脱却するために、契約に関する意識改革を啓発するなど改善に向けて早急に取り組む必要があります。

 また、不透明なコスト構造を受・発注者双方が容認し続けることは、分譲マンション販売価格や建設産業に対する社会からの不信感を助長させるだけではなく、現在のデフレ経済による深刻な雇用情勢下、雇用環境を一層悪化させるなど、社会不安をも誘発させるものであって、その社会的責任は重く改善すべきでしょう。

 私たち日建協は、建設産業の健全な発展と魅力化をめざし、透明性を確保した競争性、公平性の高い市場構築の必要性を訴えています。特にこの提言書で問題としている安値受注(ダンピング受注)は、官庁・民間工事を問わず私たちの労働条件に直接影響を及ぼすだけではなく、建設産業における生産構造をも歪め、産業全体を疲弊させる結果しかもたらさず、到底看過できるものではありません。その改善に向けて関係機関の皆様のご理解とご協力をお願いします。

2002年5月
日本建設産業職員労働組合協議会

目次

提 言


1.契約内容・責任の明確化


−提 言−

建設業の企業経営者に向けて
@ 受注者は、現在、契約上片務的な関係になっている請負体質を改善し、透明性を確保した公平な契約関係に基づき誠意をもって契約を履行しなければなりません。また、発注者・設計監理者の理不尽な要求に対し毅然とした態度を貫くべきです。そのためには、契約図書の内容を詳細に明示するとともに、当事者の責任区分、経費を含めた業務や報酬などの役割や責任範囲を見直し、契約化していくべきです。その上で従来無償で行なっていた高度な技術・ソフトを必要とする業務について、フィー化できないか検討し、発注者の理解を求めるべきです。
A ISO9000sを導入した企業にあっては、本来取り決めのない業務はないはずです。顧客の要求事項を適正に満足させ、ISO9000sの適切な運用をはかる上でも、曖昧な契約関係の改善に向け、職員に対する意識改革を啓発するとともに、発注者に対しても理解を求めるべきです。
発注者・設計監理者に向けて
@ 発注者・設計監理者という優位性の行使ともいえる、無償で行なうサービス提供の要求は、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)第二条九項の二号並びに五号」に抵触している状況であり改善すべきです。

−現状と問題点−

 建設産業は製造業と違い単品生産を行う受注産業です。発注者は顧客であり、誠意をもって接しなければなりません。また、請負契約を締結する上では、対等な関係であることは当然なことです。 
 しかし、建設投資が縮減する中、限られたパイの奪い合いから受注環境が悪化したことによって、受注者は受注量を確保するため、不公平な関係と知りつつ発注者にとって不利な契約条件の要求をせず、契約内容や責任区分などで不明瞭な領域をそのまま放置してきました。そして、その結果として『請負契約』=『請け負け』という構図が実態として定着し、その意識を払拭できないまま、業務を行っています。
 また、発注者・設計監理者においても、取引上の優越的な立場を利用しているといわざるをえないような不公正な契約の締結や、契約に規定されていない発注者の恣意による無償でのサービス業務の依頼が行われています。その主な内容は下記の通りです。



指し値による一方的な金額で契約している
本来発注者や設計監理者が行うべき監理計画の作成業務を依頼される
無償の販売協力や瑕疵でないメンテナンス工事を依頼される
契約業務外の販売協力を依頼される

 これらの不公正な要求などによるしわ寄せを、最終的には作業所で働く者が負担しています。また、サービス業務は、本来の契約業務を圧迫し、残業時間の増加や休日出勤など、職員の労働条件を一層悪化させる要因となっています。

●私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律

第二条第九項 この法律において不公正な取引方法とは、次の各号の一に該当する行為であって、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものをいう。
不当に他の事業所を差別的に取り扱うこと
不当な対価をもって取引すること
不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、又は強制すること
相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもつて取引すること
自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること
自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引を不当に妨害し、又は当該事業者会社である場合において、その会社の株主若しくは役員をその会社の不利益となる行為をするように、不当に誘引し、そそのかし、若しくは強制すること

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