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90年代前半からの経済成長の鈍化は、消費者物価指数の上昇を減速させ、これまでの物価上昇分と生活向上分を根拠としたベースアップ要求が難しくなりました。
また、組合員の年齢構成の偏りが平均年齢を高くしたために、組合員平均の妥結額や率が個人毎で考えたときのそれと大きく乖離するようになりました。平均賃上げ要求では、個々人の賃上げ額が明らかになるわけではないため、賃金カーブが維持されているのか分からないばかりか、結果的に賃下げといった事態に陥る恐れも出てきたのです。
こうした賃金交渉を取り巻く環境の変化による新たな要求根拠、新たな要求方式の必要性から「日建協個別賃金」は生まれました。
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それではまず個別賃金とは何でしょうか? 私たち労働者は、労働(労働力)の対価として賃金を受け取りますが、その労働(労働力)は全て同じではありません。例えば、労働には「易しい・難しい」、「快適・辛い」などがありますし、労働力には「習熟度」や「熟練度」などがあります。これを労働(労働力)の種別といいます。
この労働(労働力)の種別を「銘柄」といい、賃金は銘柄別の価値(銘柄別賃金)ということになります。これが「個別賃金」であり、個別賃金を一覧表にしたものが賃金表になります。
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賃金表があれば、例えば主任で熟練度がVであればいくらというように、同じ銘柄の人は誰でも同じ賃金を受け取ることができます。つまり、賃金表があれば誰でも自身の賃金を計算することができ、また、将来の賃金を予測することもできるのです。
同時に賃金表は、定期昇給・年次間格差の検証のためにも不可欠であり、日建協では加盟組合とともに賃金表の整備に取り組んでいます。
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賃金表の整備と同時に、日建協では個別賃金要求方式の導入に取り組んでいます。個別賃金要求方式とは、ある年齢断面を定めてポイント要求することです。
日建協の個別賃金要求方式は、新卒入社の総合職で、標準的に昇給・昇格した組合員のうち、30歳と35歳を代表的な銘柄として要求するものです。
個別賃金で要求することで、その銘柄の定昇額、ベースアップ額、一時金額を明確に要求でき、また2つの年齢ポイントを要求することによって、その前後、間に位置する年齢ポイントも間接的に要求することができます。これにより、賃金カーブ全体の引き上げや調整に向けた取り組みが可能となる特徴があります。
では、私たちは何を指標に賃金要求をし、どのくらいの賃金水準を目標とすればいいのでしょうか? それを具体的に示したものが日建協個別賃金です。
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賃金は多ければ多いほどうれしいですが、賃金交渉を行う際の要求根拠は、客観的にも納得が得られるものである必要があります。そこで日建協では、『私たちのあるべき賃金水準』として、以下のような考え方と手順で日建協個別賃金を作成しています。
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●ライフステージの設定
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日建協個別賃金は、私たちが望む生活をするのに必要な生計費を、老後も含めて積み上げて作成します。具体的には、結婚や育児、住宅取得、車の購入といった、人生において大きな出費を伴うライフステージを想定し、その実現に必要な支出を考えていきます。
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ライフステージを想定したら、次のステップはその設定です。この設定が必要な生計費に大きく影響するとともに、日建協個別賃金が納得性のある資料となるかを決定する重要なステップです。日建協個別賃金では、
○ 結 婚(いつ結婚するのか?)
○ 出 生(子の人数は? 出生時の年齢は?)
○ 教 育(公立か? 私立か? 最終学歴は?)
○ 住宅取得(取得時期は? 借入金は?)
○ 自動車(乗換え時期は? 所有期間は?)
○ 退職金
○ 余 命
○ 老後の生活
などを諸官庁の統計資料や民間の調査資料をもとに設定しています。また、寮費や社宅料を加盟組合への調査をもとに設定し、飲食費や光熱・水道費などの消費支出の算出に日建協家計調査報告を活用しています。
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●老後も見据えた賃金設定
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日建協個別賃金では、老後まで安心した生活がおくれる賃金水準を設定しています。定年退職時の住宅ローン残高と老後の生活費に対して、退職金と定年後の賃金収入(64歳まで就労することを想定)、本人と配偶者の年金額を想定して、老後に備えた必要な貯蓄額を算出します。
老後の生活を考えることで、特に若い世代の人たちが「まだまだ先のこと」と考えがちな、定年延長や年金水準などの問題が、「今必要な賃金」と密接に関係していることが分かりますね。
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●3本ライン
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日建協個別賃金では、全ての加盟組合が活用できるように3つの賃金水準(3本ライン)を設定しています。3本ラインはそれぞれ他産業の企業規模毎の統計と同水準の賃金を想定しています。各加盟組合は、自社の業績・現在の給与水準等に応じて、3本ラインから目標とする賃金水準を設定し、その実現に取り組むことができます。
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●2011年度改訂の概要
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時代や社会情勢の変化は、私たちのライフスタイルや物価などに影響を与え、それにより必要な支出も変化します。よって、日建協個別賃金は、一定期間(概ね3年)ごとに見直しを行っています。その時代に合ったものにすることが大切なのですね。
2011年度の改訂にあたっては、全4回の個別賃金専門委員会において、主にライフステージの設定について検討を行いました。今回の改訂では、結婚年齢、第1子、第2子の誕生時の年齢がそれぞれ1歳引き上げられました。家族構成が消費支出等の支出に与える影響は大きく、重要な変更点の1つと言えます。
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その他には、以下のような項目について見直しを行っており、今回の改訂では、全体的に必要な支出を減少させる要因が多かった点が特徴です。
見直しにあたっては、その時点で決定している内容(税制、社会保険料など)を反映させ、決定していない内容(増税の見通し、審議中の法案など)は考慮しないこととしています。
【2011年度版の主な改訂内容】
・結婚年齢、第一子、第二子誕生年齢の引き上げ
・高校無償化を反映
・住宅ローン金利の低下を反映
・退職金水準の見直し など
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●賃金カーブの検討
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ライフステージの設定をもとに算出した、各年齢で必要な支出をつないだ賃金カーブは必ずしも理想的なものではありません。そこで、日建協個別賃金では、日建協加盟組合平均の賃金カーブをベースとして各年齢へ年収の配分を行います。このとき、各ライン毎に初任給や、手当、各年齢での収支バランス等を考慮します。
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●月次賃金と一時金
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賃金カーブの検討を行って各年齢に割り付けた年収は、更に月次賃金12に対して一時金5の割合で配分します。この設定は、当初策定時の他産業の水準が基準内賃金の5ヵ月分以上あったことや賃金制度設計上のセオリーを考慮して決定したものです。但し、他産業との水準比較において重要な要素であるため、改訂の都度検証を行っています。
直近の統計データでは、民間企業の年間一時金の平均が4.5ヵ月程度であることから、一時金割合を5とする設定は妥当であると判断しました。
図-1は基準内月収を日建協平均(2011年実績値)と各ラインで比較したグラフです。日建協平均は標準ラインとほぼ同水準となっており、このことからも月次賃金を1/17とする設定が妥当であることが分かります。
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次に、基準内年収を比較した図-2を見ると、日建協平均は、個別賃金水準に対して大きく見劣りしています。実際、一時金の2010年日建協加重平均は2.36ヵ月であり、私たちの賃金水準の向上には、一時金水準の引き上げが不可欠であることが分かります。
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●他産業水準、旧水準との比較による検証 |
こうして積上げた各ラインは、それぞれがターゲットとする企業規模の賃金水準との比較を行い、その水準が適正であるかの検証を行っています。
例えば、標準ラインは全産業を対象とした厚生労働省の統計調査(賃金センサス)による企業規模計との比較を実施します(図-3)。標準ラインと企業規模計はほぼ同水準であり、めざすべき賃金水準として妥当といえるでしょう。
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最後に各ラインの新旧比較(図-4)を行い、改訂内容が各ラインの生涯賃金に与えた影響を確認して完成です。
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日建協個別賃金の基本的な活用方法は、目標とするラインを設定し、単年度または複数年度でその実現に取り組むというものですが、活用にあたっては、いくつか留意する点があります。
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■絶対額水準の把握が必要
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ポイント要求を行うには30歳、35歳ポイントでの絶対額水準の把握が必要ですが、賃金表や定昇制度がない場合は、その把握が困難です。
組合員の現在の資格や年齢から平均的モデルを策定することは可能ですが、賃金表は私たちの賃金の設計図です。賃金表が未整備な加盟組合は、会社に作成を求め続けましょう!
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■ライフステージの見直しを含めた応用
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日建協個別賃金は、生計費を根拠とした賃金水準の資料として、すべての加盟組合が活用できるものをめざして作成しています。そのため、各ライフステージには平均的な水準を設定しています。
加盟組合において、ライフステージの設定を見直すことにより、独自の個別賃金水準を策定することも日建協個別賃金を応用した使い方です。取り組みのポイントとしては
・住宅購入額、住宅ローン金利設定
・教育機関の選択
・独身寮や社宅家賃
・退職金水準
などが挙げられます。また、日建協個別賃金は、首都圏・大阪圏に居住する組合員を想定しています。地域差を反映させる場合は、子供が下宿した場合の教育費なども考慮する必要があります。
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■年収・生涯収入レベルで考える
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一時金が生活給か業績給かがよく議論されますが、日建協個別賃金では必要な年収を17で割って賃金、一時金に配分しています。よって、全てが生活給ということになりますので、要求額を考える場合には、年収レベルで考えましょう。
全てが生活給と考えた場合、「現状の賃金水準がそれ以下だと将来の生活ができないのでは?」と不安になるかと思いますが、日建協個別賃金は基準内年収のみで生活することを理想として設計しているため、時間外手当や配偶者の所得等は考慮していません。個人毎の必要な収入を考える場合には、その他にも実際の結婚年齢、子供の人数などの要素も含め、生涯収入レベルで考えましょう。
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賃金交渉を迎えるにあたり、日建協では、日建協個別賃金に加え、毎年、社会・経済情勢をふまえた「賃金交渉基本構想」を策定しています。
2012年賃金交渉基本構想では、厳しい労働環境で働く私たち組合員が「働きがい」と「誇り」を持って仕事に取り組むためには、賃金水準の向上が不可欠であるとしています。また、離職や技術伝承問題の解決のためにも『私たちのあるべき賃金水準』をめざして継続して取り組む必要があることを確認しています。
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将来を見据えた賃金水準を実現しよう! |
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賃金が唯一の生活の糧である限り、老後の生活までを見据えた賃金水準を考えることは、賃金交渉のみならず、人生設計においても重要なことだと日建協は考えます。
私たちにとっての賃金とは? 賃金交渉の機会に大きな視点から賃金を見てみてはいかかでしょうか?
賃金交渉は、組合員一人ひとりの思いが原動力になります。私たちの家族や仕事に対する熱い思いを結集させ、一丸となって2012年賃金交渉に臨みましょう!!
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