「昔は良かった。」という言葉が、時々聞かれたりします。私はこの言葉が嫌いでした。しかし、先日ある映画を見て以来、もしかしたら今生きている時代よりも昔の方が良い時代であったのかもしれないと感じるようになりました。
「三丁目の夕日」と題されたその映画は、昭和30年代のまだ貧しかった頃の日本を背景に、国の発展のため、生活の向上のため、直向きに生きる人々を描いた映画でした。私の考えを変えさせたものは、この映画のストーリーそのものではありません。スクリーンに映しだされた時代背景から醸し出される生活感や、人々の生き様から、今の時代に無い『豊かさ』を感じとったからだと思います。国として貧しく、人々の生活もまだまだ苦しい時代でありながらも、国の将来的な繁栄に対する希望を共有しあいながら働く労働者の姿勢には『豊かさ』があり、産業の繁栄がやがて生活の向上をもたらすであろうという希望を抱いていたのです。今の日本、そして私たちがいる建設産業には昔のような貧しさや苦しさはありません。しかし、この『豊かさ』が欠けてきているように思えるのです。
社会資本整備の担い手として、社会的な役割の高い産業にもかかわらず、産業としての魅力が今、急激に低下していると言われています。次世代を担う学生たちは、こぞって建設産業への入職を希望せず、また一旦入職した者が次々に他産業へ転職していく傾向がある中、建設産業は今、将来に向けた技術の伝承も危ぶまれる大変な人不足であります。
『建設産業の魅力は、なぜ失われたのか。』
労働組合の立場から、この問題に答えを出すとすれば、「労働時間が長い」であるとか「賃金水準が低い」となるのでしょう。この答えは間違っているわけではありません。しかし、もう少し人の意識に踏み込んで考えてみると、今の建設産業で働く場合に、そこには「労働に対して抱く『豊かさ』」が欠けており、また働く者とその家族にとっては「生活に『豊かさ』」を感じる余地が無い事こそが、魅力を薄れさせている最大の要因だと思うのです。「産業の魅力化」は、そこで働く者が、いかに「豊かな生活」を手にしているのか、また、働くことにどれだけ『豊かさ』を感じているのか、によって計られるものであり、その『豊かさ』が未来永劫、持続していく揺ぎないものとしていくことによって実現されるものであります。
私たちが、私たちの産業で生きていくとき、そこには厳しい労働環境があり、また、その厳しさに見合うような収入は必ずしも得られないかもしれません。しかし、そのような働き方や生活の中にでも『豊かさ』が見出せるような産業にしていかなければなりません。私たちの手で。そして、みんなの思いで。
「取り戻そう、建設産業の魅力を。 そして働く私たちの輝きを」のスローガンのもと、日建協は加盟組合、そして組合員とともに建設産業の魅力化に向けて、様々な活動を実施していきます。 |
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