3月に入り2008年の賃金交渉もいよいよ大詰めですね。みなさんも職場集会などで、今年の賃金交渉にむけた活発な議論を交わされていることと思います。
日建協では私たちの目指すべき賃金水準を「日建協個別賃金」として示し、私たちの賃金は決して企業業績や景気の動向だけに左右されるものではないという考え方のもと、加盟組合が連帯意識を持って賃金交渉に臨んでいます。
しかし、企業側としては業績や経済の動向を多角的に検証しており、各加盟組合の執行部では日建協の個別賃金を念頭に置きながら、同様の観点での検討も平行して行っています。
賃金交渉に臨むにあたり、Compassでも今年の景気の動向に注目してみました。 |
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通常、国内の景気の動向を測る指数として経済成長率が用いられていますが、この経済成長率は国内総生産(GDP)の伸び率を表しています。 GDPとは一定期間に国内で産出された付加価値の合計を示しており、年間GDPとはつまり1年間に日本国内でどれだけの儲けがあったかを表したものです。
またGDPには「名目」と「実質」があり、名目GDPとは単純にその時の貨幣価値で付加価値の合計を表したもので、実質GDPとは物価水準を考慮に入れて名目GDPを調整したものです。
「名目」と「実質」の経済成長率の捉え方を分かりやすくイメージすると以下のようになります。
例えば昨年のGDPが100兆円で、今年のGDPが105兆円になったとします。これに対し物価上昇率が10%あった場合には、昨年のGDPの100兆円は今年のお金に直すと110兆円となります。つまり名目上は5%の成長がありますが、実質成長率に置き換えると-4.5%となります。
逆に物価上昇率が-10%だとすると昨年のGDPの100兆円は今年のお金で90兆円となります。90兆円が105兆円に成長したので名目成長率の5%に対して実質成長率は17%となります。
実際に「名目GDP」から「実質GDP」を算出するためには次のような計算式を用います。
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実質GDP=名目GDP÷GDPデフレーター(※1) |
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図1のグラフで表されているように、現在の景気は平成14年から拡大を続け、すでに戦後最長の7年目に突入しています。 ところが「戦後最長の景気拡大??」と違和感を覚えられる組合員の方も多いのではないでしょうか。私もその一人ですが、それは今回の景気が長きに渡るデフレ下での拡大であり、企業の売り上げも利益も一部の好調な産業を除きさほどの伸び率を示さず、私たちの賃金水準も抑制されたまま経済成長が続いたためです。そのため、今回の景気は「実感なき景気拡大」とも言われています。
まさに図1のグラフでも、今回の景気の特徴を表すように実質経済成長率が名目経済成長率を上回り続けています。前述の通り実質成長率は名目値から物価の上昇分を差し引いてはじき出すため、通常の成長軌道にある経済においては実質成長率のほうが低くなります。ところがデフレを背景にした今の日本経済においては、実質値と名目値が逆転したまま緩やかな成長を続けてきたのです。
今回の景気拡大期においては名目GDPも上昇しているものの、常に「名実逆転」の状態が続いていました。しかしながら今年の1月に閣議決定された政府経済見通しによると、平成20年度にはわずかながらも「名実逆転」が解消されると見込まれています。ようやくデフレから脱却し景気の拡大を実感できるのでしょうか?
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経済をマクロ的に捉えると物価が上昇に転じ、日本経済が長く続いたデフレを脱却することは重要なようですが、今現在の私たちの生活はどうでしょう?
原油価格の上昇によりガソリンをはじめ、あらゆる石油製品が値上がりするとともに、最近ではパン、スパゲティー、しょうゆやビールなど食料品の相次ぐ値上げが家計を直撃し始めました。私たちが生活していくうえで、急激な物価の上昇は決して歓迎できるものではないように思われます。
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実際にここ最近の物価はどの程度上昇しているのでしょうか?
物価の上昇率を測る物差しとして物価指数があります。物価指数はある時点を決めて、そのときの物価がどの程度上昇(又は下落)したかを比率で表したものです。代表的なものとしては総務省が作成している消費者物価指数、日本銀行が作成している企業物価指数などがあります。
その中で私たちの生活に直結する消費者物価指数の推移を図2に示しています。 消費者物価指数とは、日常生活で消費者が購入する食料品、衣料品、電気製品、化粧品などの財の価格のほかに、家賃、電話代、授業料、理髪料などのサービスの価格も含めた584品目の商品(財やサービス)の価格変動を示す指数です。 直近の月ごとの動向では昨年10月からの3カ月間に、総合指数が前年同月比0.3%、0.6%、0.7%と非常に大きな伸びを示しており、さらに上昇の気配も感じられます。 |
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物価の上昇に伴い、私たちの賃金上昇率が比例して伸びなければ実質賃金がダウンすることになります。可処分所得(※2)が名目上は変わらずとも目減りしてしまうのです。昨年以上の生活水準を維持するためには、最低でも物価の上昇分を反映した賃金の上昇を確保したいものです。
しかし、経営者側からは賃金を物価に連動させるのであれば、長くデフレが続いた今回は過去の物価の下落率も加味して考えるべきとの声も聞こえてきそうですが、みなさんはどのように考えられますか?
図3では消費者物価指数と国税庁の「民間給与実態調査」によるサラリーマンの平均年収について、それぞれ1970年(昭和45年)を1として、以降の伸び率を比較しています。直近で比較可能なデータのある2006年(平成18年)では消費者物価指数が3.08倍になっているのに対し、サラリーマンの平均年収は4.63倍の伸びを示しています。物価の上昇を賃金の伸び率が上回ってきたことが、サラリーマン世帯の豊かさの向上につながってきたともいえます。
私たちの生活水準を維持し、豊かさを確保していくためにこれからも物価の上昇を上回る賃金水準の向上が必要ではないでしょうか。 |
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※1 GDPデフレーターとは
国内総生産(GDP)の物価変動分を差し引いて比較するために用いられる指数。物価動向をみる指標としては店頭価格の動向を示す消費者物価指数が一般的であるが、GDPデフレーターは家計消費だけでなく設備投資や公共投資も含めた経済全体の物価動向を表す。
※2 可処分所得とは個人所得から税と社会保険料などを差し引いた残りの部分で、個人が自由に処分できる所得。 |
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Compass Vol.776 一括PDFはこちら(10.64MB) |
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