さて、昨年における建設産業の状況は、一部で改善の兆しは見え始めたものの、未だ回復の道筋が見えない、長く厳しい状態が続いております。また、国際社会における円高基調にも大きな回復は見られず、民間設備投資も国内から国外へと大きくシフトされ始め、国内における私たちの仕事の場は一段と少なくなり、過剰な競争が強いられる産業構造が続いています。このような建設産業の状況は、働く者一人ひとりの負担を増幅させ、入職希望者を激減させてしまう“人に厳しく人材も不足する辛い産業”とも呼べるのではないでしょうか。
そして私たちは、これからも今以上に少ない人数で、かつ、個人の仕事量を増やし、身を削って働き続けなければ、賃金はもとより雇用の確保までもがままならないのでしょうか。
新年を迎えるにあたって、私を含めたこの産業で働く組合員の皆さま一人ひとりの「当たり前の日常」を考えることをお勧めしたいと思います。
通常働くということは、与えられた仕事をミスなくこなし、決められた時間の中で一定の成果を上げることが重要であり、その労働の対価として賃金を得ています。
私たち建設産業においては、ここにもう1つの要素が加わります。それは、請け負った期間と金額内で、どれだけ効率よく、どれだけ品質の良い商品を安全に提供できたかということにあります。しかも、条件が異なる環境下での一品生産において問われます。これは、肉体的にも精神的にも大きな労動負荷ではありますが、その反面、完成した時の満足感と喜びは強く感じることができます。これこそが、“建設業の魅力”であると思います。
しかし、問題はその生産過程において関わった労働者全員が、完成時の満足感を共有できていないことです。「現場」と言われる最前線の作業所チームの功績がそのほとんどに係るとしても、現場だけで成し得るものでもありません。営業が仕事を勝ち得て現場が造る。その生産の過程には、購買部門もあり、月次収支を管理する事務部門もなくてはならない重要な業務となります。
それぞれの部署で働く人たちは、1つの物件に対して、チームとしての意識と、完成し引き渡し後の喜びを現場と同じように感じなくてはいけません。それぞれがそれぞれの部門で、単なる日常業務としてこなしているだけの義務的な仕事と感じていては、辛いだけの仕事であって楽しい仕事にはならないのです。
今年は、是非とも、一人ひとりがこの“日常”を見直して欲しいと思います。見直した時の無駄や非効率な業務は、業務担当者の声として、自分の会社と組合に伝えていただきたい。それにより生まれた時間を、1つの製品を造り上げた喜びを感じるための時間と、自分のための時間に充てていただきたいと思います。確かに、チームの中に優秀な人材が1人居れば、ある程度の仕事はこなせるかもしれませんが、その人には必ず負荷が生まれます。その人個人としても、仕事に忠実で使命であると感じて一生懸命に働いているにもかかわらず、家族にとっては、大きな負荷であることを知る必要があります。ワーク・ライフ・バランスとは、家族も含めた自分に係るすべての人がバランスをとることで一層の効果を得るものなのです。
もちろん組合員である皆さまの声は、自社の組合で解決できるものとそうでないものがありますが、解決できないからといって、声をあげても無駄というわけではありません。その声を私たち日建協は待っています。
是非とも、今年の抱負と目標を立てるにあたって、日記のように「今日の無駄(仕事・家庭)」「今日の私の不満(仕事・家庭)」を書き出してみてください。きっと、自分の働き方からさまざまなことが見えてくると思います。
私たち日建協は、昨年来「変わる意識と変える努力」を伝えてまいりました。加盟組合の中にも、「意識改革」というキーワードを盛り込んだ組合が多く存在します。それは、これからの建設産業が今までとは違う働き方をする必要があると感じているからです。当たり前の日常をもう一度見直し、自分の会社を働き易い環境へと改善することが、楽しい建設産業へとシフトさせることへと繋がっていきます。それは、現在、その渦中にいる私たちの義務であり、権利でもあります。
私たち建設産業は、社会インフラを提供する重要な基幹産業であり、それを支えているのは組合員とその家族ですから、私たち個人とその家族が幸せでなければ、健全な社会インフラを提供し続けることはできません。2011年、新たな年を迎えるに当たり、もう一度自分を見つめ直すことによって組合員の皆さま個人とその家族、そして、更には、子供たちが遊び・学ぶ地域全体が、楽しく活気のあるものへと向かうように、35,000人の知恵と結束力で変えていきましょう。
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