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世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし (在原業平)
※意訳: この世の中に桜と云うものがなかったなら、春になっても、咲くのを待ちどおしがった
      り、散るのを惜しんだりすることもなく、のんびりした気持ちでいられるだろうに

東京・上野 桜のトンネル
今年も、もうすぐ、さくらの季節がきます。さくらは、冬の間は葉を1枚もつけず、春になると急に芽吹き、パッと咲いてぱっと散る。この辛抱強さのなかに、華やかさがあり、潔さがある。非常にかっこいいじゃないですか。伊勢物語の主人公ともいわれる平安時代の歌人、在原業平もさくらのない春なんて考えられない・・・と、平安の世の時代から、日本人としての春への想いを詠んでいます。
ある面で男もこうでなくてはと、毎年毎年この時期になるとサクラを見ながら一人満悦するわけです。花粉症の私としては、今年も立体マスクによる厳戒態勢で、日本人としての想いをそこそこにして、お花見に参ります。

今回、特にお気に入りのMY花見スポットを4箇所紹介します。子供のころからお花見が好きで、自宅から歩いていける二つの公園にはよく行きました。ひとつはなんと言っても上野公園(台東区)です。ここは、動物園や博物館、西郷隆盛の銅像でも有名ですが、銅像付近から噴水池までのゆるい坂道が特にきれいな桜並木です。満開の時には、その道をドーム状にさくらが覆いつくし、人であふれけぇります。桜の下では昼夜ともに宴が行われていますが、夜になると灯りがともり、さくらが浮かびあがり、妖艶な雰囲気が増してきます。夜桜見物もたまりません。

<上野公園のさくら>
上野・不忍池の桜
寛永元年(1642年)の寛永寺の建立以降、寺院の周辺に三代将軍・徳川家光、開祖天海僧正をはじめ多くの大名、僧侶が桜を寄進し、上野の山内随所に桜を植えたのがはじめで、花見名所の歴史は長い。坂を下りると不忍池もあり、その周辺にも桜が多く、桜の本数1200本・ソメイヨシノが約50%を占める。

浅草に近い隅田公園(墨田区)もお勧めです。隅田川をはさんで両岸の堤防がピンクの空間となります。春の陽気のなかで、川を行き交う屋形船、水上バスの動きているとホンワカする気持ちになり、こころが穏やかになります。とくに、隅田川にかかるその名の通りの桜橋から見渡すと、こころまで幸せ満開気分です。

<隅田公園のさくら>
東京・隅田公園の堤防の桜並木

四代将軍、徳川家綱が植えさせたのが始まり。八代将軍吉宗のとき本格的に植栽が進み花見の名所となる。長命寺の桜もち、言問団子、じまん草もち等の名物が味わえる。隅田川沿い1kmあまりに、150本の桜が花のトンネルとなる。

隅田川の夜桜
広島・千光寺公園の桜と瀬戸内海
兵庫・阪神競馬場の桜
このように、東京・江戸にさくらの名所が多いのは、江戸時代、暴れん坊将軍の徳川吉宗が各地にさくらを植えさせ、花見を奨励したことによるといわれています。そのねらい通りにさくら花見の風習が広く庶民に広まったのは、日本人のさくら好きと相まったのでしょう。
なお、東京で川沿いにさくらが多いのは、もうひとつの理由があるからかもしれません。昔、江戸は湿地帯でぬかるみが多く、人が暮らすうえで水を制御することは重要でした。  川に土手を作り、町には水が流れないようにしました。しかし、その土手が洪水により決壊したら、とくに下町では被害は甚大です。そこで、土手を、町を洪水から守るために、桜を植えました。土手には、花見にたくさんの人が集まり、歌い踊りまわることにより、しっかり踏みこまれ、丈夫な堤防になる。暴れん坊は、このようなねらいでさくらを植えさせたのかもしれません。(内容は少し(大きく?)違いますが、詳しくは、竹村公太郎著「土地の文明」で・・。)

また、広島転勤時の現場の近くにあり、さくらの季節には何度となく上った千光寺公園(広島県尾道市)もグッドです。ここは坂で有名な尾道にあり、写真のように瀬戸内海を見渡すことができ、もちろん、夜桜も幻想的です。「日本さくら名所100選」の地として、公園内はさくらで埋め尽くされています。
そして最後に、楽しく興奮しながら見るのは、JRA日本中央競馬会GI桜花賞が開催される阪神競馬場(兵庫県宝塚市)のさくらです。
このさくらは、まだテレビでしか見たことがありませんが、若い牝馬が一生懸命に走る背景に満開のさくら。毎年、毎年興奮しながら、見ています。さて、今年はどの馬が勝ち、そして私のフトコロはどうなることやら。


サクラは日本人の心を惹きつけてやまない花です。サクラの花見は、春を告げる特別な行事のルーツでもあるからです。農耕民族である日本人にとって、春は田植や穀物の種まきの準備期間であり、山の神に豊作を祈る季節でもあります。サクラの「サ」は山の神、サクラの「クラ」は神の座の意味を持ちます。つまり、桜は穀物豊作の神が宿る依代(よりしろ)としての信仰をあつめていました。そういった意味からも、日本の心ともいえるようです。 つまり、サクラを守り続けていくということは、日本人の感情を共有しつづけることにもなるわけです。

4月になると、新年度です。フレッシュマンたちが加わることも多いと思います。新年度は、桜の花の下で新たな一年が始まります。なんだか気持ちが明るくなってきませんか。 ぜひとも、みなさんの身近なお気に入りのお花見スポットに、家族や仲間とともに行ってみてはいかがでしょうか。それでは、最後に。せーの。「サクLOVE〜♪」。

※ 「サクラ」。「お花見」はたくさんのホームページがあります。
※ 竹村公太郎著「土地の文明」、PHP研究所

◆ 桜といえばソメイヨシノの豆知識
「ソメイヨシノはクローン桜」
江戸の染井村(現在の東京都豊島区)の植木屋が世に広めたといわれるソメイヨシノは、繁殖能力が弱いため、その一本の木を「接木」というクローン技術を使って数を増やしてきました。つまり日本にあるすべてのソメイヨシノは遺伝子的に同じ情報を持っているのです。そのため病気などによって、一度にまとめて何本もの木が枯死してしまうということも多いのです。
そしてよく言われるのが「60〜70年寿命説」。終戦後、全国にはソメイヨシノの木が一斉に植樹されました。その60年後というのが、まさにこれからの10年ということになり、一気にソメイヨシノが激減するのではないかと懸念されています。

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