私たちの賃金は、一般的には生産性(付加価値の配分)を上限、生計費を下限として労使交渉により決定されます。よって、私たちは賃金交渉を行うにあたり、生計費をしっかり把握しておくことが非常に重要なことであると言えます。 では、生計費はどのように捉えればよいのでしょうか。 生計費には2つの捉え方があり、一つは、実際にかかっている費用の実態を、家計調査などから把握する実態生計費。もう一つは、望ましい一定レベルの生計を営むためにはいくらの費用が必要かということを理論的に算出する理論生計費です。 実態生計費は現実の収入によって規制された生計費ですから、賃金が低い時、それに応じて行われる生活レベルは、望ましいと思う状態よりも低い位置に抑えられてしまいます。つまり、実態生計費は、実際の賃金と生計費の分析に活用するもので、今後の賃金のあり方を考える上では有効な資料とはならず、理論生計費で捉える必要があります。 日建協では、私たちのあるべき賃金水準を「日建協個別賃金」として示していますが、この日建協個別賃金は、理論生計費に基づいて検討し作成されたものです。 今回はまず実態生計費から私たちの生活実態を分析し、次に理論生計費にもとづく2010年日建協賃金交渉基本構想について説明していきます。
日建協では、毎年、約330世帯に協力いただいて、一ヶ月の家計収支状況を調査する日建協家計調査を実施しています。また、2009年11月に実施した「時短アンケート」では、生活実態・意識調査を含んでいます。前回行った2006年の調査と比較して、組合員の暮らしぶりについて見てみましょう。 配偶者の収入で家計をサポート まず、3年間の家計状況(表-1)を見てみると、配偶者収入とその他の収入を含めた家計全体の実収入は年々微増しています。しかし、2009年の世帯主勤務先収入を2008年と比較すると、超過勤務手当ては増加していますが、所定内賃金が減少したため、全体として減少しており、実収入の微増に貢献したのは、配偶者収入の増加だと言えます。このことは、具体的な家計の対処方法(表-2)で、「配偶者が働きに出るようになった」が最も多く回答されていることからも窺えます。 実際、共働きをしている割合(図-1)は、2006年と比べ、全体で11.6%も増加しており約半数の世帯が共働きとなっています。特に、50代の世帯で共働きの増加が顕著となっています。
では、配偶者の収入は何に使われているのでしょうか。(図-2)。最も多いのが「日常生活費に充てている」で、以下、「不時の支出に備えている」「教育費用に充てている」となっています。 他の項目にくらべ「日常生活費に充てている」との回答が圧倒的に多くなっていることから、配偶者の収入が生活レベルの向上というより、生活レベルの維持に使われ、日常の家計をサポートする上で欠くことのできないものとなっていることがわかります。
家計の中で負担に感じているのは 次に、家計の中で負担に感じている費目(図‐3)について見ると、「子どもの教育費」が最も多く、負担に感じる人の割合は毎年増加しています。 また、赤字家計となった世帯にその理由(図‐4)を聞いたところ、「収入が減った」が最も多く、次に「子どもの教育費が増えた」となっています。節約することが難しい教育費が家計の中での大きな負担となっています。
組合員の現在の暮らし向き(図‐5)を見ると、既婚者も未婚者も3年前に比べ「かなり苦しい」「やや苦しい」が増加しています。特に、既婚者の半数近くが現在の暮らしを「苦しい」と感じています。 このように、組合員の生活は配偶者の就労による貢献と家計のやりくりによって維持されており、実態生計費は、望ましい一定レベルの生計を営むための理論生計費に比べ、かなり低水準のところで均衡していると考えられます。 私たちは、賃金交渉において、この実態生計費が縮小均衡に陥っていることを主張し、労働の対価としての正当な賃金である理論生計費の確保を目指していかなければなりません。
つづきはこちら→(理論生計費)